第10話討ち取ったり

だけど斬れって、俺に殺せってこと?

もちろんわかってる。わかってるけど心の準備が。


「いや、あの、ちょと待って」

「我が首を持って開戦となりましょう。さあ、さあ!」


なんで負けた方がこれほど強く出てくるのかわからないけど、グラディスがしきりに首を斬れと言ってくる。

だけど俺だって腕に力が入らないんだ。

今すぐやれと言われてもできない。


「グ、グラディス? その豪気失くすにはおしい。どうだろう捕虜として捕まる気はないか? 悪いようにはしないぞ?」


俺は少しでも時間が稼げればと、咄嗟に思いついた事をグラディスへと口に出す。


「ラティス殿、私をそのように買っていただけるのは嬉しいが、今は合戦の最中。私にも意地と恩義がある。ひと思いにやってくれ」

「そ、そうか」


今の会話の間にも腕の痺れが少し取れてきた。

これならなんとか振れないこともない。

俺の覚悟は全く決まらないが、グラディスは既に覚悟が決まっているようだ。

俺は震える手でエルブラントをゆっくりと頭上へと振りかぶる。

グラディスの首を刈るべく振り下ろすが、恐怖から思わず眼を瞑ってしまう。


「あ……え……と」


振り下ろした俺の剣に肉を斬り骨を絶つ感覚が伝わってくることはなかった。

眼を瞑ってしまい、人を殺す恐怖に腕と身体が縮こまってしまいグラディスの首を掠めるようにして空振ってしまった。

グラディスの首からは一筋の血が流れているのが見える。


「ラティス殿! これは、私に生きろと言うことですか!? 生き恥を晒してでも生きろと?」

「いや、まあ、そう。そういうことだ」

「……わかりました。そこまで言われるのであれば、このグラディス従いましょう」

「ああ、そうしてくれ」

「オオオオオオオオオオオオオオオオオ〜!」

「ラティス様が勝ったぞ〜!」

「うおおおおおおおお〜!」

「ラティス様万歳!」

「グリフォンの化身! ラティス様万歳!」

「おおおおおおおおおおおお〜!」


後方のレクスオール軍から勝鬨の声が聞こえている声に混じり、前方のリクエ軍中段のざわめきが耳に届いた。


「うおおおおおおおおおおおお〜!!!」

「敵襲! 敵襲だ〜!」

「ひ、卑怯な! 一騎討ちの最中に〜!」

「グアアアアアアアア〜」

「逃げるな、迎え撃て〜!」

「あああああああ〜」

「ヒィイいい〜」


どうやらハンニバルが敵側面に突撃したようだ。

敵は混乱しているようなのでよほど俺とグラディスの一騎打ちに集中していたのだろう。

そもそも俺は一騎うちなどするつもりはこれっぽっちもなく、勝手な解釈で挑んできたのはリクエの方なのに卑怯とかは意味がわからないが、とにかく俺は自分の役目を果たす事ができたようだ。


「討ち取ったり〜!!!  レクスオールのハンニバルがリクエ子爵の首をとったぞ〜!!!」


しばらく後喧騒の中、一際大きな声が響き渡り、戦場の刻が止まった。


「うおおおおおおおおおおおおおおおっ〜!!!」


どうやら史実通りハンニバルがリクエ子爵の首を取ったようだが、大将首を取ったということはこれで戦は終わりか?

だが、目の前にいるリクエ軍はどうすればいいんだ?

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