第14話:再誕
「鉄の道……街道が鉄で舗装されたのか?」
「街道の舗装とは別で新たに作られたんですよ。汽車が走るための道を」
「汽車?」
アルガはおれの反応を楽しむように説明していく。
「馬を使わない巨大な車……とでも言いましょうか」
「馬を使わない? 牛とかで引くのか? あ、いや、魔法か」
「魔法……も使いますけど、どちらかというと重要なのは蒸気ですね。お湯を沸かすことで車を動かすんすよ」
「お湯……?」
意味が分からずにアルガを見るが、アルガも自慢げに俺を見るだけでマトモに説明をしない。
コイツ……あんまり理解しないまま話してるな。
俺がまぁ仕組みはいいかと考えていると、隣にいたシルリシラが口を開く。
「蒸気機関のことだね。お湯を沸かす……というか、水を液体から気体に変えると体積が増えて、その圧力で物を動かす技術だよ」
「へえー。馬よりも力が出るのか?」
「うん。ほら、薪を燃やしてたら急に結構な勢いで弾けることってあるでしょ。あれは薪の中の水が気体に変わるけど、行き場がないときに起こるの。ほんの少しの水分でも結構な威力がある物を大きな規模でしてるから、すごい力だよ」
博識だな。……と、感心しているとアホのアフロが「その通りでヤンス」とドヤ顔していた。
「結構すごいんで先輩も見たら驚くと思うっすよ」
「まぁ楽しみにしておく。……移動も大丈夫となると、本当に連れていくことになるのか。いや、まぁ放置は出来ないから仕方ないけど」
「よかったっすね!」
「よくねえよ」
さてあとは……まぁ、家族への説明か。
また俺によくしてくれる人たちへの隠し事が増えることへの罪悪感。
あの親父殿なら気にせず受け入れそうなものだけれど、話すことに抵抗があった。
英雄として扱われているジオルドであるということが国が割れる原因であるのも事実だが、それだけではなく……。
父とは血の繋がりのない姉に加えて、俺まで本物の子供ではないと思ってしまったら、それはとても残酷なのではないだろうか。
……そう考えていたけれど、どうなのだろうか。
弟妹が産まれると聞いたのに、本物の子供がいるのだからもう明かしても大丈夫であるとは思えなかった。
……ああ、俺が嫌なのかもしれない。
明かす事で彼等と他人になることが。
そういや、昔は欲しかったもんな。革命やらなんやらで忘れていたけれど、俺は家族が欲しかったんだった。
すっかり忘れていたけれど。
「……俺は普通の人の人生を知るべき、なんだったな」
「ん、僕はそう思うってだけだよ」
「言い訳に使うよ。それ」
シルリシラは不思議そうに首を傾げる。
三人で自宅に戻り、丁度昼飯に帰ってきていた親父殿と姉と母の前に彼女を見せる。
「あー、すみません。急な話で申し訳ないのでヤンスけど。……この子、少し訳ありで……しばらく預かってもらえないでヤンスか?」
驚いた表情の母と、いつも通りの父。それに同年代の少女に興味津々と言った様子の姉。
父は一度母を見た上で頷く。
「まぁもちろん。ジオルド様に頼まれたら断れはしませんよ」
「いや……悪いでヤンスね。英雄の名前を使うみたいで」
申し訳なさそうなアルガの言葉に、親父殿は珍しく表情を崩して少し驚いた風に笑う。
「あれ、どうしたでヤンスか?」
「いや、ジオルド様も惚けたことを言うのだと。救国の英雄だからじゃなくて、友達の頼みは断れないってだけですよ」
臆面もなく友達と言ってのけた親父に、アルガは負けて照れてしまったような表情を浮かべる。
「はは、そうでヤンスね。ありがとう」
おっさん二人で仲睦まじく話している横で、俺の姉がパタパタとシルリシラの元に向かう。
「こんにちは、私、ジオくんのお姉ちゃんのネルだよー。お名前なんて言うの? いくつ?」
「ん、シルリシラだよ。年齢は四時間ぐらいかな」
「へー、じゃあ私がお姉ちゃんだ。ネルお姉ちゃんって呼んでいいよ。ジオくんったら変な呼び方するから、呼ばれたかったんだ」
「変な呼び方?」
シルリシラは不思議そうに俺を見る。
「姉御、シルリシラを困らせたらダメだぞ」
「ほらー。シルちゃんは普通に呼んでね」
「ネルお義姉さん」
なんか変な意味を込めた呼び方をしているような……。
「それでジオルド様。しばらく預かるというのはどれぐらいですか?」
「ああ、ジオルドくんが旅立つまででヤンスね」
「ん? ジオと一緒に王都に行くんですか? ……ふむ」
「今は王様がいないのでただの都でヤンスけどね。どうかしたでヤンスか?」
親父は姉にまとわりつかれているシルリシラを見て、俺を見る。
「ジオに訓練をつけてやってくれませんか。……あの子は、少し危ういところがある。けれども、俺はその危うさを悪いところだとは思わない。だから、危うくても生き残れるようになってほしいんです」
「……友達の頼みなら断れないでヤンスね」
アルガは俺を見て頷く。
昔の勘を取り戻す手伝いをしてくれるのは助かるけど、忙しくはないのだろうか。
「母さんは平気か? この子がいて」
姉御に物理的にブンブンと振り回されているシルリシラを見ながら尋ねると、母は気にした様子もなく頷く。
「うんもちろん。どうしたんですか? ジオ」
「いや……。弟か妹が産まれると聞いて、あまり負担をかけたくないなと」
「もー、子供が何言ってるんですか。そんなの気にせず甘えていいんですよ」
母さん……と、感動していると、彼女は姉にブンブンと振り回されているシルリシラを見る。
「それより……あの子、大丈夫かしら」
「はは、大丈夫だよ。まったく元気ないい子供だね。……うっぷ。振り回されすぎて気持ち悪くなってきた」
シルリシラは空中で青くなっていき、姉が地面に降ろすとフラフラと酔ったように歩く。
大丈夫かと声をかけようとしたとき、シルリシラの体が点滅しはじめる。
「まずい! 姉御! 離れるんだ!」
「へ? わ、わっ、ジオくん!?」
慌てて姉の手を握って引っ張ると、シルリシラの点滅の切り替わりが早まっていき──。大きな光と共にシルリシラが跡形もなく爆発する。
「……ば、爆発した」
「へ? えっ、えっ、し、シルリシラちゃん? えっ、えっ」
「いや……多分すぐに復活して戻ってくるから気にしなくていいよ」
あまりのことに言葉を失っている四人にそう言うと、家の扉が開いて白い髪の少女が戻ってくる。
「やあ、シルリシラだよ」
何事もなかったかのようにひょこりと家に入ったシルリシラに、親父は頷く。
「……なるほど」
「その反応は流石におかしいだろ。なるほどじゃないが」
本当に動じない男である。
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