第18話「銃声と歌声」


 クルミが叫ぶのだが一切無視でイツカズはAK-12で魔獣を次々と殲滅し五分で決着が付いた。


「さすが勇者様だ!!」


「絶対に変でしょ……てか何でイツカズしか使えないのよ!!」


 クルミの疑問はもっともだ。勇者の専用装備が聖剣だったりするのは良く有る話だがアサルトライフルは滅多に無い。それに銃ならトリガーを引くだけで誰でも使えるから勇者専用とか無理が有ると思ったのだ。


「あ、それには理由が……」


「どんな理由があんのよ!!」


 そこでイツカズは記憶が戻った時の話を始めた。まずは転生直後の話だ。その時に幸せな家庭に生まれ人の役に立ちたいと話して例のギャル男神は約束通り彼の願いを叶えた。


「俺は七歳まで普通に育ってました、前世が封印されたんです。何事も無ければ封印されたままなはずでした」


「ああ、例の黒前世ね?」


「はいぃ……その通りですぅ」


 それに涙目になりながら頷くと前世が解放され自分にお役目、つまり勇者として覚醒した時の話だと前置きをしイツカズは語り始めた。



――――13年前(イツカズ7歳)


『ってわけでぇ、思い出した~? カズく~ん』


「はい、僕を転生させてくれて、しかも貴族で安定した生活と優しい家族まで……転生前とは天と地ほどの差です」


 突然ギャル男神はイツカズの夢の中に現れた。よくある夢枕に立つというやつで、お告げが有ったとか言われるアレだ。


『いや~、俺も良い事した系だし、ポイントも貯まるからウィンウィンでマジ感謝……だけど、ちょ~っと困ってんだよね~』


 そこでギャル男神はマオー軍の存在はエイフィアルド王国だけでは無く今の世界をも滅ぼす危険性が有り早急に対処したいと当時のイツカズに語った。しかし問題が一つ有った。


『でも俺、神じゃん、基本的に下界に手を出しちゃダメ系なんだよね~、でも世界一つ滅ぼしたら評価マイナスで俺もピエンなわけ』


「はぁ、それで僕はどうすれば?」


『そこでカズくんにお願いが有るんよ~、いっちょ世界救ってくんね?』


 そこでギャル男神は直接介入は出来ないが間接的な介入は出来ると言ってイツカズに勇者としての力を授けたのだった。


「これが俺に適した装備……ですか?」


『う~ん、どうせなら使ってみたくね? ラ・イ・フ・ル~』


 そんなノリで勇者の力の一つとしてアサルトライフル『AK-12』を呼び出し自由に使う事が出来るようになってしまったのだ。



――――現在


「だからAK-12は神様からの贈り物なんだ」


「んな物騒なもん贈り物にすんなギャル男~!!」


 天に向かって叫ぶクルミだがイツカズは苦笑するばかりで周りの人々は叫んだのがクルミだと分かると「ああ、聖女様か……」と言って作業に戻って行った。


「ねえ、イツカズ、私って変人扱いされてない!?」


「いえ、おもしろおかしい姉ちゃんって認識だそうです」


 近くを歩いていた男の子が逃げ出していた。それにピキピキしながらキレる聖女にイツカズは睨まれる。


「あっそ、今夜のスープの量減らしてやるから覚えてときなさいよ、あのガキ」


「あはは……程々にして下さいよ」


 その後の襲撃もイツカズの活躍で敵は全て撃退された。そして村に対し王命で一時避難の指示が下ったのはその日の正午だった。




「はぁ、私って何してんだろ……」


「人助けですよ、さすがに疲れました?」


「いや、そうじゃなくて本業とか忘れそうで」


 これなら王都で機材の調整と練習してた方が良かったと愚痴を漏らすクルミにイツカズはポツンと言った。


「なら歌います? 村の中央ホールなら誰も居ないし」


 善は急げと二人で見に行くと少し古いがライブステージのような集会所が有った。昔はステージとして使われていたが最近は使われてなかった。


「ふ~ん……じゃ、さっそく歌いますか~」


「アカペラでも尊い」


 そして、この世界で二度目のライブが始まった。こうなると勇者も完全に聞き惚れて油断し警戒を忘れていた。だから自分以外の観客がいるなんて気付きもしなかったのだ。


「ふぅ、って増えたわね……ご清聴ありがとうございました~」


「はっ!? いつの間に」


 今もし襲撃が有ったら確実に出遅れていたであろう失態だが周りの村人や兵士たちも今はクルミに注目していた。


「吟遊詩人の歌とも違いますね~」

「なんかカッコいいかも、この間から思ってたけど」

「不思議と元気が出てますね……聖女様の歌」


 実はボランティア中に口ずさんでいたクルミの歌は不思議と人々の耳に残り密かに注目されていた。この世界では物珍しかった事もあるのだが確かに彼女の歌は、この世界の人間には魅力的に聞こえたのだ。


「お客さん……やっぱ多い方がいいかも……」


「は~い、聞く方は前から座って下さ~い、押さないで順番にお願いしま~す」


 そして一人感動するクルミの傍らでイツカズは集まった聴衆を順番に座らせ観客誘導していた。前世でのライブ会場のスタッフの動きを見様見真似みようみまねでやってみたら意外と上手く行った。


「じゃあ行くわよ!!」


 そのままクルミを見て合図すると彼女は歌い始めた。これが後の記録に残された異世界で最古のアイドルステージになるとは、この場の誰も思っていなかった。

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