第16話「意外な再会」


「酷いわね……」


「まだマシな方だよ俺の経験上は……ね」


 到着した町でイツカズは即座に炊き出しの用意を始めるとクルミも軽食や簡単なサンドイッチなどを作って住民に手早く配っていた。


「ありがとうございます~、勇者様」


「姉ちゃんもありがとな、勇者様の助手かい?」


「実は聖女なんですよ~」


 そんな感じで意外にもクルミの手際は鮮やかで足手まといになると内心で思っていたが真逆だった。大怪我の人間に驚いてはいたが割と冷静で薬師の手伝いをしたり後はイツカズの魔法や薬で治す際も補助したり、ぶっちゃけ有能だった。


「取り合えず一段落だ……それにしてもクルミンって」


「意外だった?」


「うん、でも俺の前世の事故もだけど……こういうの慣れてる?」


 イツカズは自身の交通事故の時の対応を思い出す。だが自分の知る限り三枝クルミというアイドルに、その手のエピソードは無かったはずだと思うと過去を振り返る。


「まあね……そういうのも祖母に少し、私自身も必要だと思ってて」


「そうですか」


 珍しく歯切れの悪い解答に察したイツカズはすぐに話題を変えた。それに今日は襲撃された後の町や村の様子見で済んだが明日はマオー軍と戦う可能性も有るから油断は出来ないのだ。


 その後、第二陣として到着した兵士らに見張りを頼むとイツカズとクルミは町の中央で野営のようなテントで眠った。アイドルだから野宿に近いテントはダメかも知れないと思ったがクルミは普通に眠っていた。


「うぅん……ライブぅ……」


「クルミンの寝顔が見れるなんて神に感謝……でもクルミンってアウトドアの仕事とかしてたのか? テントとか俺が死ぬ前に流行り出してたけど」


 そんな事を思いながらイツカズもテントの外で警戒したまま椅子に座ったまま浅い眠りに付いた。勇者として座ったまま警戒して寝るのは何年もして来たから慣れっこだ。そして敵襲を告げる声で目を覚ました。




「大した事は無い……だがマオー軍じゃない……コイツら魔物の群れと統率する魔族が一体だけ?」


 イツカズは倒した魔物の群を調べながら邪魔になる魔物を魔法で焼き払う。辺り一面に魔物が焦げる嫌な臭いがするが風の魔法で死体もろとも吹き飛ばした。


「イツカズ~、大丈夫なの~?」


「はい!! クルミンも兵士諸君も来てくれ~!!」


 寝起きと同時に街の外周部に殺到していた魔物を前にイツカズは魔法を数発放ち敵の七割を沈黙させ残りの三割をこうして検分していた。


「コイツらはマオー軍では無い。野良の魔物だ」


「そうなの?」


「ああ、だが規模がデカ過ぎる。クルミンにも分かりやすく言うと冬眠してた熊が今年だけ町に50頭現れて暴れた感じかな?」


「普通に大事件じゃない……」


 野良の魔物というのはそれだけ危険な存在だ。王国の民やクルミなど一般人は勘違いしている者も多いのだがマオー軍そして魔物と魔族は三つとも別物だ。


「まず魔物は野生動物が魔力で狂暴化した生物、魔族は古の時代に魔術で体を改造した強化人種の末裔なんだ」


「へ~、そうなんだ。じゃあマオー軍は?」


「ああ、マオー軍は元は弱小国の連合軍が母体で人間と魔族の連合軍だった。でも途中からマオーという人物が現れ指導者になって名前がマオー軍。そんでソイツを俺が倒したのが三週間前くらいだよ」


 実はマオー軍の中には魔族だけではなく人間も居た。言わば今までの戦争は国家間の戦争に近い形態だったのだ。そして異世界には魔族と人族という二種族が中心となり共存繁栄していた。


「ふ~ん、なるほど異世界も大変ね」


「まあね、じゃあ兵士さん至急、今の報告を本国へ」


「了解!! ドラゴン便ですぐ王都へ戻ります!!」


 残りの兵たちに現場の確保と警戒を任せるとイツカズはクルミを連れ町に戻り翌日には次に襲われた村へと移動する。急遽編成された隊商を引き連れての移動となり道中は危険だったが敵は全てイツカズが撃退し無事に目的地へ到着できた。


「それにしてもイツカズって本当に強かったのね」


「まあ、世界を救った勇者なので」


「前世は残念だけどね~?」


「それは言わないで下さいよ……っと、村が見えて来ました、え?」


 馬車に揺られて二人と隊商が到着したのは小さな村で家屋が五〇有るかどうかといった感じの寂れた村だ。しかしイツカズは違う感想を持っていた。


「どうしたのイツカズ?」


「この村は近隣の村の中では一番大きかったはず、でもこれじゃ小さな集落だ」


 その言葉の意味を察してクルミは一気に真剣な顔になった。しかしイツカズとクルミの予想に反し彼らを出迎えたのは予想外な光景だった。




「お前は……」


「随分と遅かったじゃねえか勇者様よぉ」


「お前はマオー軍の将軍!?」


 そこにいたのはボロボロの鎧姿のマオー軍の将軍で、かつてイツカズと敵対していた人物だった。そこで勇者は名前を思い出そうと頭を巡らせた。


「たしか名前は……サトシ!!」


「タカシだ!!」


「微妙にかすってるわイツカズ!!」

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