第15話「実績作りとリバース・アイドル」


 マオー軍の復活、その知らせを受けてイツカズとクルミは王城の玉座の間に直行となった。


「おお勇者よ、そして聖女も待っておったぞ!!」


「はっ、陛下……参りました!!」


「大臣、仔細を頼むぞ」


 そこで王の隣に居た大臣が書簡を読み上げた。要約するとマオー軍の生き残りが再起をかけマオー城周辺を封鎖していた部隊を壊滅させ近隣の村を襲っている。その説明がなされた。


「――――以上だ。まさか、このような事態になるとは……すまぬ」


「お気を落とされず大臣、して呼ばれたのは私だけですか?」


 当初は周辺の兵士や騎士たちだけで何とかなると思って放置した結果、後手後手の対応になり勇者への報告が遅れてしまった。しかしイツカズは気にしていない。困った時はお互い様だからだと笑って答える。しかしクルミの目は光った。


「いや既に他の者にも故郷へ伝令を出している」


「そうか、皆も故郷に!?」


 実は何を隠そう勇者以外の仲間は王国の他の街や村出身で王都に現在いるのは勇者だけなのだ。


「つまり知らせは近い者でも明日の昼ですか……」


「うむ、ドラゴン便で一番近い者は夕刻に知らせが到着すると報告が来ておる」


 そう言うと大臣は下がり玉座の王がイツカズ達に向き直って口を開いた。


「勇者よ再び頼めないか? 国のために」


「はぁ、それは……」


 今、元推しの付き人なんで許可を取ってからと言おうとしたらイツカズは口を塞がれると代わりにクルミが口を開いた。


「失礼!! 陛下、わたくしも勇者様とご同道させて頂けないでしょうか!?」


「ファッ!?」


 変な悲鳴を上げるイツカズだが素早く口をふさがれながらクルミに合わせろと小声で言われ黙らされる。そして解放されると彼は了承し宣誓もした。


「勇者イツカズ、再びマオー軍を討ち果たすべく出陣いたします!!」


「うむ、しかし聖女クルミ、其方は魔法が使えないと聞くし王都で……」


「出来ません!! この世界に来て間もない私ですが国の助けになりたいです!!」


 王の言葉にもクルミは真剣な顔で言い放った。その言葉に王を始め大臣は感動していたがイツカズだけは頭にクエスチョンマークが浮かんでいた。


「おおっ!! 正に聖女!!」

「女の鑑いや人間の鑑や!!」

「素晴らしい流石はマジ聖女ですなぁ!!」


 おかしい絶対に何か変だと違和感しか無かった。歓声が鳴りやまぬ中を玉座の間から二人で退出するとクルミは笑っていた。


「これはチャンスよ」


「へ? どういうことクルミン?」


 しかしクルミは周囲を確認して小声で家に戻ってから話すとだけ言って無言を貫いた。なんか嫌な予感するとか思いながらイツカズは家路を急いだ。




「実績よ!! 実績が大事なのよ!!」


 イツカズの部屋でのクルミの第一声がこれだった。ポカンとする勇者にアイドルは解説を始めた。


「危険を省みず人助け!! 過去にも有った私の数少ないバズりをもう一度!!」


「んなこと考えてたの!? 危ないからねマジで!!」


「だってイツカズ最強なんでしょ? なら私は後ろで応援してあげるからさ~」


 それは危険だと言おうとして固まった。そういえばマオーを倒す時も仲間はそんな感じだったと思い出したからだ。


「……聖女が慰問に来たってだけでも効果は見込める……か?」


「そうそ、すぐ出発でしょ行きましょ!!」


 この世界で買った旅行鞄に着替えや食料それに王都でも買えるだけ軽食を買い込むと二人は王城のドラゴン発着場へ向かった。そこで積み込めることが可能なだけ乗せると数刻後には王都を経った。


「それにしてもドラゴン便ってこういうのなの!?」


「ええ、背中になんて乗りませんよ危ないし痛いので」


 ドラゴン便は安全優先だ。しかし見栄えは一切気にしていない。ゆえに大型ドラゴンの首から下げられた籠に人間が乗せられるだけなのだ。


「それってぇ!! イツカズは乗った事あるのよね!?」


「はい!! 背中はゴツゴツしてるんでぇ!!」


 そして上空での会話は大声でないと通じないのは自明の理。ちなみに荷物など人間が乗って無い籠を他に二つも首から下げてドラゴンは飛んでいた。彼はオスのドラゴンで体表はグレーの普通のドラゴンだった。


「普通のドラゴンって何よ!!」


「ノーマル種って種類です!! 他にも!! 地竜とか水竜とか居ます!!」


 ドラゴンには他に飛べないタイプも存在していて地竜や水竜などがそれだ。そして空を飛んで人を運べるほど大きいドラゴンをノーマル種と呼んでいた。


「これって後どれくらい乗ってればいいの?」


「あと一時間飛んだら休憩所です、それを二回なので三時間弱ですね」


 その言葉にクルミの顔は真っ青になった。そしてイツカズは休憩所でアイドルがゲロを吐くシーンを生まれて初めて見た。


「アイドルもゲロ吐くんだ……」


「当たり前でしょ!! トイレも行くしリバースもする、だって人間だもの!!」


 その言葉通りにクルミは次の休憩所でも再びリバースするのだが三回目の目的地到達の時には一切吐かなかった。


「凄いよクルミン!! もうドラゴン酔いしないなんて!!」


「違う……もう戻す物が無い……のよ」


 真っ青な顔で胃液すら出ないと涙目で言われると流石に同情したイツカズは休憩を長めに取って目的地の町へ向かうことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る