第14話「前途多難とマオー軍復活?」


「オーケー言われた物は向こうの世界から転送するわ、てか基本、異世界から運んだのバレないようにマジ頼むよ、上うるさくって~」


「分かってる、でも大丈夫。ぜ~んぶ聖女の魔法って事にするから、イツカ君もフォローよろしく!!」


「はい……」


 急にやる気を出したクルミはイツカズとギャル男神を捕まえるとライブの計画を話した。さらにクルミは神様ならライブ機材くらい用意しろと失態の穴埋めを要求したのだ。それに悪ノリしたギャル男神によって元の世界から機材一式の転送が決定してしまった。


「それと今日からイツカ君は私の臨時付き人兼マネ兼プロデューサーあと雑用ね」


「はい……」


 そして現在、イツカズの部屋で会議中だ。ロケハンしていた時と違って完全にウキウキなクルミに対し元推しが可愛すぎて辛いと思うイツカズだったが本気になったクルミは軽く暴走していた。


「声が小さい!! 返事は大きく!! ギャル男も!!」


「「はいっ!!」」


 このように体育会系のノリになってしまうのだ。彼女はアイドルの中でもガチ勢でストイックだ。しかし発言権は枕営業をしてないからグループ内で低く、常に自分の思うような活動が出来ず不満だった。


「よ~し!! 一度やってみたかったのよ自分で企画から全部やるの、しかも予算は無尽蔵っ!!やる気出て来た~!!」


 しかし異世界とはいえ自分の好き放題にライブが出来ると気付くと一気に頭の中で計画を立てイツカズの資金力とギャル男神の力の悪用を思い付いたのだ。


「あの、予算は無尽蔵じゃなくて……」


「だってイツカ君の勇者税でしょ!! なら実質無尽蔵!! 公金万歳!!」


 そしてストイック過ぎるクルミ、彼女は目的のためには手段を選ばない強かさが有る。少し前まで税金なんてと思っていたのが自分のためなら平然と使う決断力が彼女には備わっていたのだ。


「まあ、使い道も無かったですし……いいのかな?」


「ここはノリっしょカズく~ん!!」


 そして神の一押しでイツカズも折れた。こうして国民の血税は元推しのためにドバドバ使われる事が決定してしまった。かつてない程の推しへの重課金お布施が確定した瞬間だった。


「よ~し!! やるわよイツカズ!!」


「え? はっ、はい!!」


 そしてイツカ君から完全に付き人扱いとなり呼び捨てにされても感激してしまう勇者だったりする。この日から二人と一柱のライブ計画は始まった。




「まさかライブ会場が確保できないなんて……」


「いきなり前途多難ですね、クルミンお茶入ったよ」


 現在、二人は悩んでいた。ぶっちゃけクルミは甘く考えていた。勇者であるイツカズの金と権限を使えばライブくらい開催できると考えていたからだ。


「ありがと、にしても老人会のパラパラ大会とドラゴン借り物競争が被って三週間はメインホールが借りれないとは……ぐぬぬ」


 勇者税というイツカズの財源それに実家のコネが有っても無理なことが有った。それが国家行事である。今クルミが言った二つは一見すると国とは関係無い行事に見えて重要だったのだ。


「なんせ今年はマオーが討伐されたから全て国家行事になってるんですよ」


 勇者がマオーを倒した。それは多くの問題を解決した。マオーや配下の魔物たちによる被害は計り知れず犠牲者も多く出た。エイフィアルド王国は少ない方だが、それは犠牲者が出なかったという意味では無い。


「なるほどね……戦勝記念ってやつ?」


「ええ、なので数年は国家行事だらけなんです」


 それだけ長年の国難が消えたのは大きかった。実際マオーに滅ぼされた村や町そして隣国などの復興は急務だ。しかし同時に国内の安定のために国家主導で平和アピールもしたいのが国側の本音だった。


「ふ~ん……じゃあつまりイツカズのせいじゃない!!」


「いや、俺は世界を平和にしただけで……」


「でもイツカズが世界を平和にしたからライブ会場が確保できないんじゃない!!」


 それは違うと言えないイツカズであった。世界平和を勝ち取ったのに元推しに、この言われようは泣きたくもなる。しかし割と事実だから言い返せなかったのだ。


「そうですね、せめて転移がもう少し早かったら勇者権限で色々な事にゴリ押しできたんですけど」


 むしろ今は全てが終わったから黙ってろが国の本音でイツカズも弁えなくてはいけない時期だ。あと数年は大人しくして実家を伯爵家くらいにしてもらえば良いという程度に考えていた。


「いやいや世界救った英雄じゃない!! 間違い無くスーパースターでしょ!!」


「う~ん、まあ……分からないでも無いですけど今の俺は予備兵力ですし」


 そして問題なのが勇者の立場だ。黙って象徴になるか国側に従っていなければならず文句を言って貴族や国の上役に目を付けられた場合、闇討ちや暗殺なども有り得るのだ。


「勇者って言っても世知辛いのね、芸能界みたいに足の引っ張り合いじゃない」


「しがらみが有るのは、どっちも一緒ですからね」


「そうね、女も男も枕だ金だ~って、汚い世界よ、ほんと……」


 そんな風に愚痴っていた二人だが部屋の扉が乱暴にノックされビクッとして慌てた。部屋に転送された現代の機材を、どうやって隠すか慌てた二人の前に現れたのはフルプレートの鎧姿の兵士だった。


「勇者さまあああああ!! 至急、王城へ!! マオー軍が復活しました!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る