第13話「トラブル」
◆
「まずはここですが……」
「う~ん、なんか運動場みたいね」
二人がやって来たのは王国の中央通り広場だった。用途は主にパラパラを踊る事などだ。一時は王都までマオー軍に攻め込まれた時も有ったが、この広場でパラパラを踊り撃退した過去も有った。
「それで、どうですか?」
「う~ん、広さはいいかも……でも音響設備が無いなら厳しいかも」
「やはり外だと厳しいんですか?」
「まあね、それにドームとか室内と色々と勝手がねスタッフに聞いた事あるし……機械の力すっごい大事よ」
ここら辺はプロじゃないと分からないんだろうなと思うイツカズ。確かに室内の方が機械も設置しやすいし外に設営するのも一苦労だと思う。
「……じゃあ次に行きましょう」
「う、うん……それでさ、あれって何?」
クルミの視線の先には子供達が並んでいた。とある屋台の前に長蛇の列が出来ていた。そしてイツカズは看板を見て納得していた。
「あれは……ドラゴン売りの屋台ですね」
「少し待ってイツカくん!?」
「何ですか? あ、今日はドラゴンの日か」
「更に謎の単語出すの止めて、お願いだから」
このエイフィアルド王国では普通の光景でもクルミには完全に非日常だ。異世界で育ったイツカズは忘れているが名物のドラゴン屋台やドラゴン市が開催されるドラゴンの日などは現代日本には存在しないのだ。
「というわけで国の象徴であるドラゴンに感謝する日なんです」
「感謝する前に売りに出されてない? あんたの国の象徴」
「そりゃ、まあ……あはは」
言われてみれば普通に叩き売りされているドラゴンの雛を見てイツカズは自国の闇に気付いてしまった。何気無い日常にも社会悪は潜んでいるのだ。
「そういえば犬とか猫よりドラゴンが主流なのよね、ここって」
「ええ、前にも言いましたが動物園とか行きます?」
そんな会話の中で異世界間ギャップを感じる二人だが今は下見だと馬車に戻ろうとしたが、いきなり声をかけられ振り返った。
「うぇ~い、うぇ~い!! そこのカップル、カラードラゴン安いよ~」
「カラードラゴンて……まるでカラーひよこ……ってギャル男!?」
呼び止めた人物を見てクルミが叫んでイツカズは慌てたが杞憂だった。周囲には誰も居なかった。人が一人も居ない隅っこで神が
「神様……何してんすか!?」
思わずイツカズも素が出てしまう程の珍事だ。今までイツカズは一方的な通信やイメージ映像そして寝ている間の夢の中くらいにしか神を見た事が無かった。それがいきなり実体を持って現れたのだから驚くのは当然だ。
「ま~ま~、とりま話さね? カズく~ん」
その言葉にイツカズもクルミも頷くしか無かった。
◆
「ね、ねえイツカ君これ……」
「ええ、周りの時間を停止しましたね神様」
ギャル男神に声をかけられた時には既にイツカはクルミを庇うように前に出ていた。その動きで逆に周囲の違和感にクルミも気付いた。
「カズく~ん、ガチでナイトじゃ~ん」
「からかわないで下さい。今日はどうしたんですか?」
いつの間にか気付けば横でニヤニヤして肩を組もうとしていたギャル男神から距離を取ろうとしたイツカズだが背後にクルミを庇っていたのを思い出し動きが止まる。
「いやいや、二人がデートしてっから俺っちもテンアゲしまくりで~!! 参加したくなったっていうか~、サプライズ?」
そしてイツカズと肩を組むと満足気に笑いながら二人に「お似合いじゃ~ん」と言って冷やかし始めた。
「からかわないで下さい……それで今日は何の用ですか?」
「そっ、そうよ!! 何しに来たのよ!!」
イツカズに庇われて内心ちょっとカッコいいかもとか思ったクルミだったがギャル男の視線に耐えられず思わず叫んでいた。
「いや実はガチ目のお知らせでさ、クルミちゃ~んゴメン、君の復活まだ時間欲しい感じなんだよね~」
「それって、どれくらい?」
「上で何かシステムエラーっぽくてさ~、俺っちの申請が後回しにされてぇ~、マジ中間管理職ダリーんだよ、んな訳で直接ゴメンしに来たってわけぇ~」
「例の輪廻転生っぽいシステムですか? 俺を転生させた時の」
「そうそ、そこに横割りしてクルミちゃんを戻す予定だったんだけど~、本元のシステムを俺っちの義妹がぶっこわしたみたいでぇ~」
ギャル男神によると定期的に有る神同士の
「それをわざわざ?」
「まぁ、身内の失態だし、それに俺っちも下界に久々に降りたかったし~」
そうは言うが、この神が下界に降りて来たのはイツカズの知る限りで史上初で異常事態だったりする。その事に気付いてしまったイツカズはギャル男神に向かって訝しんで言った。
「勘弁して下さいよ、ま、こんな事態じゃ……その、クルミさん?」
「分かってるイツカ君、つまり時間が有るのねギャル男?」
「超特急で直させてるけど数ヵ月はかかるっぽいんよ~、マジ勘弁」
ただシステムが復旧すればクルミの望む時間に戻すことが出来ると言われ安心した。そして安心し切ったクルミはニヤリと笑って言った。
「じゃあ今から私が言う機材用意して、こっちでライブしたいから!!」
「クルミン!?」
いきなり話が飛んでイツカズは素っ頓狂な声を出して驚いた。そして、ここから聖女兼異世界アイドルの伝説が幕を開ける事になるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます