第二章『アイドルと聖女の両立』

第11話「ジムへ行こう」


「クルミン、じゃあ皆の前で普段どう呼べばいい?」


「それよね……芸名とか分かんないだろうし」


 あれから二日が経過したが勇者と聖女は部屋でポテチっぽい菓子を食べながら今後の話し合い中だった。


「そういえばイツカ君が飲んでるの何?」


「これですか、クロボンです」


 数分で話し合いは終わり公的な場以外で「クルミン」呼びはしない事が決まった。そして今は元の世界に戻るまで何をするかの相談中だ。


「クロボン? 何それ」


「飲んでみれば分かりますよ」


 そしてイツカズが飲んでいるのは、この世界でも割とポピュラーな黒い飲み物だった。クルミは夜会以降は水以外は遠慮し他は果汁ドリンクをもらっていたので、この世界の飲み物は気になっていた。


「まさか、お酒っ!? それで私を酔わせて無理やり!?」


「しません!! しませんから!!」


「じゃあ一口……って!? コーラっぽい!!」


 実は有りますコーラ系飲料。しかも、それだけでは無く他の炭酸飲料やエナドリも存在していたりする世界なのです。


「ちなみに、向こうの世界の飲み物ほとんど有りますよ」


 イツカズは部屋の冷蔵庫から数本のビンを取り出して並べた。ちなみにシロボンやアカボンなど他にも種類は多数存在している。


「ギャル男のせいか……でも私にとってはラッキーね」


「ええ、食生活は向こうと大差無いですよ」


 疑問に思った人も多いかも知れないが、この世界は剣と魔法なファンタジーな世界だが時代的な歩みは現代社会と大差無い。ただ科学ではなく魔法が代わりに発展した異世界なだけなのだ。


「でさ、私って何すればいいの?」


「普通に観光してればいいと思いますが」


 せめて、この世界にいる間は休んで欲しいと思うイツカズだったがクルミから返って来た言葉は真逆だった。


「本当はレッスンしたいんだけど、振り付けの確認とか体力はさすがに大丈夫だと思うけど少し食べ過ぎだから運動もしたいし……」


「じゃあ軽くジョギングとかしますか?」


「出来れば簡単なトレーニングできるジムみたいな……無理よね?」


「いや、有りますよジム」


 なら連れてってと言われるとイツカズはすぐに関係各所に手配をし、二人は馬車で目的のジムへと向かった。




 そこに有ったのは、まごう事無き普通のスポーツジムだった。違いが有るとすれば魔法に関わるトレーニング施設が有るくらいで異世界といえど違いは無かった。


「なんかゴメン、全部、用意してもらって……」


 クルミが自分の服装を見ながら言った。今の装いは黒のシャツにグレーのパンツの下に黒のレギンスでスポーティーな恰好だった。


「いやいや、クルミンのトレーニングウェア姿見れただけで眼福でっす!!」


 そのオフ全開な姿を誰よりも喜んでいるのは当然ながらイツカズだった。髪をポニーテールにまとめているのもレアで感激してファン丸出しだ。


「あっそ、割と感謝してたんだけど……ま、いっか」


「そうですよ、遠慮しないで……取り合えず体動かします?」


「そうねイツカ君は?」


 そう言われてイツカズは何か事故が起こると危険だからと最初は見ていると言った。確かに異世界では何が起こるか分からないし妥当だと判断したクルミだったが、イツカズは挙動不審だった。


(まあ挙動不審でも中身はイツカ君だし……仕方ない)


「クルミン? 何か有った?」


「ううん、べっつに~」


 まずはランニングマシンで軽くジョギングをしているとイツカズはソワソワしながら自分を見ているのが分かった。本人はさり気無く見ているようだが予想は付く、どうせ自分の胸を見ているのだろうと……。


「なら、良いけど」


「えっ?」


 だが違った六人の中ではグラマラスな体系でゆえに体での営業を求められるが全て断って来た彼女で、そういう獣のような視線は慣れていたからチラリとイツカズを見るとイツカズはマジマジとクルミの顔を見ていた。


「どっ、どうしたの!?」


「大丈夫だから、心配し過ぎ……」


 その言葉に頷くイツカズを見て内心驚いたと同時に思い出した。一人だけ胸より顔を見ていたファンがいたことを、逸加は自分の顔ばかり見ていた事を思い出した。


「じゃ、じゃあ俺……じゃなくて私も手頃なトレーニングをして来ます!!」


「あっ、うん」


「何か有ったら必ず呼んで下さい!!」


 そう言うとイツカズは少し離れた所でベンチプレスを猛烈な速さでやり出した。くれぐれも皆はマネしないようにしよう勇者だから出来るのだ。


(まさか、クルミンとデートみたいな事が……恐れ多い……でも)


 でも今、自分は充実していると実感していた。元推しをこんな傍で見れて、気軽に声までかけられる身分なんて至高だと、だから次の瞬間さらなる光景にイツカズは固まった。


「んっ、ふぅ……あっ、こぼれっちゃった……」


 見るとクルミが持って来た飲み物を一口含んでいると、せきこみ軽く口の端からこぼしていた。それを手で拭った瞬間、少し離れた場所でガシャンと大きな音が響いた。


「なっ……うっ!?」


 それを見てイツカズはさらにベンチプレスを破壊していた。彼の興奮がマックスになったのだ。


(な、なんてエロい唇なんだ……前から思ってたけど……)


 そう、勇者イツカズ、転生前も転生後も大の唇フェチだった。

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