第3話「ギャル男神の本気」
「あっ、か、彼女は……ま、魔女では」
目の前のトラウマ級の人物の出現に混乱している内に元推しが魔女認定され勇者は焦っていた。ちなみに魔女とは我々の世界と同じで異端審問の後は問答無用で処刑される運命になる。だがタイミング良く玉座の間全体が再び輝き出した。
「こ、これは……」
「か、神の降臨じゃああああああ!!」
王や大臣が叫ぶと光の靄が現れ朧げな人型の輪郭を表す。それは先日も話していた神様で勇者イツカズにはハッキリ見えていた。
(久しぶりに姿を見たけど神様って……どう見てもギャル男だよな)
「あんた、さっきのギャル男!?」
「えっ? クルミン!? 見えてるの!?」
何とアイドルのクルミにも神の姿が見えていた。そのことに勇者も驚いていたが冷静に考えて彼女が今この場に居る時点で神が関わっているのは確実だった。
「や、やっぱり私のことクルミンって言いましたよね!?」
「今のは幻聴です異世界の女性よ、私は元推しの名前なんて言って無い!!」
「え? 元推し? じゃあ、あんたがギャル男が言ってた勇者!?」
何で俺が勇者だと分かっているんだと言いそうになるのを今度は抑える事に成功したイツカズだが二人を置き去りにしてギャル男が喋り出す。
『その通りです。聖女よ……』
「えっ!? 神様!? いつもと違うんですけど!?」
「おおっ!? この荘厳な雰囲気、これが神の声……それに今、聖女と!?」
ギャル男っぽい神様の喋り方が普段と違う。二人は気付いていないが王や他の人々には光をモザイクのように使いぼやけて見えなくしているのだ。
(何で今回は神様みたいな喋り方!?)
『そう、彼女は世界を平和に導いた勇者のために召喚した聖女なのです』
「え!? さっきと話がちがっ――――もがっ~!!」
余計なことを言う前にイツカズは咄嗟にクルミの口を押えた。周りはギャル男……ではなく神の言葉に集中していている。そして神の言葉を遮るのは王国の教義に反する冒涜的な行為なのだ。
「神の言葉を遮らないで……この世界じゃ危険だから、分かった?」
「っぷはぁ……う、うん」
イツカズの言葉にコクコク頷くとクルミはジーっとイツカズを見ていた。そして神の話は始まった。
◆
『――――そのために勇者イツカズの下に聖女を送ったのです』
神託が終わると周囲は静まった。人々は神が語る神秘的な内容に心打たれていたが二人は違った。ギャル男が鼻ホジして声色を変えメンドイわ~って顔しながら話していただけだったからだ。
(もう少し俺らに配慮は無いのか?)
(あれが神様とか……有り得ない)
形だけ跪いている勇者とクルミと違って残りの人々は深々とギャル男に祈りを捧げていた。最近は勇者も忘れていたがこの国の普通はこうなのだ。
神の話を要約すると勇者の功績と悪のマオー軍を倒した褒美として聖女を遣わしたという話で二人は神の言葉が届く神託者だと言われたのだ。
神の言葉を聞ける神託者、それは今まで勇者しか居なかった。だが今後は聖女クルミも神託者として扱うようにと宣告されたのだ。
『最後に彼女は異世界より招いた者でぇ、この世界の理を知らネ……ゴホン、知らぬため勇者イツカズにその身を預けます。では人々よ次の神託を待ちなさい』
少しボロが出そうになったが何とかやり切った顔をした後にニヤァと二人にだけ見えるように笑うと口パクで「後で連絡ヨロ」と言っていた。
そして神が消えると人々は口々に祈りの言葉を唱えていた。
「「「「パネェ、マジリスペクト」」」」
「それなの!? そんなんが祈りの言葉なの!?」
「うん、あの人が神だし……」
驚愕するクルミにイツカズは自分も覚醒する七歳までは普通に唱えていたから実はそこまで違和感は無いと言うと余計にショックを受けていた。
気持ちは分かると話している内に周囲の人々に動きが有った。王が号令をかけマオー討伐と聖女降臨の宴を新たに開くと宣言しパーティーの用意が始まった。
「聖女って私はただ――――「聖女様、こちらへ」
「待って、は~な~し~て~!!」
勇者の目の前で聖女いやアイドルで元推しは連れて行かれた。目立つ衣装を変更するためと言われイツカズは頷くしかなかった。
◆
そして宴が始まる前に勇者イツカズは王城に用意された自室に入ると音が周囲に漏れないように魔法を使って部屋を封印すると叫んでいた。
「神様!! 何でクルミンを呼び出したんですか!!」
『いや、カズく~ん今回、俺、頑張ったっしょ』
今度は声だけしか聞こえないがイツカズは部屋の中で叫んでいた。
「いやいやトラウマ持ってくんな!!」
『でもカズ君ってクルミちゃんにガチ恋じゃ~ん、だから神対応、マジ神っしょ?』
本当に神様がやってるからそりゃ神対応だとは思ったが今はそれどころじゃない。俺は生まれ変わって心を入れ替えたのだ。今の自分は人々のために戦い世界を平和に導いた勇者で自分勝手で情けない一般人では無いのだ。
「なぁ~んで余計なことしてくれたんだよ神様!! 忘れてたのに!!」
『ま、神様的にガチのウンメー作ったし楽しめよ、うぇ~い!!』
それだけ言うと神様から一方的に
「勇者様、聖女クルミ様の御仕度が整いました」
「え? あっ!? 分かった入ってくれ」
すると目の前に現れたのは白を基調としたナイトドレスに着替えたクルミだ。イツカズは目の前の美少女の姿に完全に目を奪われてしまった。
「クルミン、マジパネェ……」
若干ギャル男が移っていた。
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