◇4
◇side.テオ
数日後、何やら廊下が騒がしく感じた。執務室にいた陛下と僕の事へ、慌ててやってきたのは侍女。確か彼女は皇女様に付けた世話係の一人だ。皇女様に何かあったのだろう。
「申し上げます、陛下。じ、実は、皇女様が朝から体調を崩されており、お医者様を呼んでいただきたく参りました」
どうか、呼んで頂けないでしょうか。と必死に彼女は頼み込む。それだけ、体調がすぐれないという事なのだろう。
「この前はぴんぴんしていたではないか。そこまで酷い状態なのか」
「長旅に、生活環境の変化にとストレスがかかってしまわれていましたし、皇女様はまだ5歳でいらっしゃいます。そのくらいの子供は体調を崩す事は多々ありますので……」
あぁ、凄く驚かれてるな。まぁ陛下はこれまで風邪なんて全くひかれなかったからなぁ。驚くのも無理はない。
「皇室医師を呼べ」
「……今、何と……?」
「皇室医師を呼べと言ったのだ。二度も言わせるな」
皇室医師と言ったら、陛下専属の医師ではないか。陛下の怪我、病を治療する事は勿論健康管理まで担っている。そんなエキスパートの皇室医師は陛下以外のものを治療する事は禁止されている。それを知っているうえでこんな事を言い出すとは、どこの風の吹き回しだ?
まぁ、陛下は余程の事がない限り病だの怪我などは全くしないから医師は仕事が出来て快く受けると思うがな。
「何をしている。さっさと呼んで向かわせろ」
「しょ、承知いたしました!」
ありがとうございます、の一言を残し部屋を一目散に出ていった侍女。そこまで切羽詰まっていたとは。あとで皇女様のご様子和見に行こう。
「……子供というのは」
「はい?」
「そこまで弱いものなのか」
「……まだ免疫が付いていない子供は、熱を出す事は当たり前です。きっと今皇女様は熱で苦しんでおられる事でしょう。熱で魘されているのではないでしょうか。ベッドから出る事すら出来ず、食欲もなく嘔吐してしまうこともあります。頑丈な陛下とは全く違うのですよ」
「……そうか」
言い過ぎたと思ったが、陛下にはこれくらい言わないと伝わらないだろう。だが、皇室医師か。まさかその方を呼び出すとは思いもしなかった。
やはり、今日の陛下はどこか変だ。変なもの食べたか? 後で料理長に確認してみよう。
◇side.クロエ
朝、いつもと同じ時間に皇女様を起こしに行った。いつも、皇女様は私が来るより先に目が覚めてしまわれている。だから今日もきっと起きておられるだろう。そう思って声をかけたけれど、返事がなかった。昨日は外を散策されて、疲れて熟睡しているのかな、そう思い覗いてみたら……
「こっ皇女様!?」
真っ赤な顔で、息苦しそうなご様子だった。額に触れてみると、凄く熱い。すぐに他の者を呼び、冷水とタオルを持ってくるよう指示を。もう一人には、陛下に医者を呼ぶ許可をもらってくるよう伝えた。
昨日はあんなに元気なお姿だったのに、ストレスが溜まっていたのかもしれない。あぁ、気付けなかったことがこんなに悔しいなんて。リンティ様とお呼びしてもいいという許可を頂いて舞い上がっていたせいで……
コホンコホンとせき込み苦しむ皇女様を見ていられない。申し訳ございません、皇女様……
しばらくして来訪してきたのは、思いもよらぬ方だった。陛下専属の皇室医師と呼ばれる方。陛下以外を診る事は禁止されているのに、どうして……
でも、侍女からは陛下本人から許可を頂いたって言ってたし……どこの風の吹き回し? ま、まぁでも素晴らしいお医者様に診て頂けるんだもの、感謝してもしきれないわ。
「ストレスによる風邪だろう。数日安静にすれば大丈夫」
水分を十分に取り薬を飲んで頂くように、と薬を処方して頂いた。あぁ、本当に良かった。
だが、ホッとしたのもつかの間。次に部屋に入ってきた方を見て息が止まった。皆すぐに頭を下げた。
陛下がいらっしゃったのだ。あの冷血陛下が。そう、あの陛下がだ。
「どんな調子だ」
「ハ、ハイ、水分と薬を取り、安静にしていれば大丈夫だと仰っていました」
「そうか……」
リンティ様が寝ておられる寝台の横に立ち、じっと彼女を見つめておられる。一体これはどういう事なのか、と陛下の後ろに立つデービス様に視線を送ったが、彼も困惑しているようだった。
弱いやつはいらんって追い出したりしないわよね。そんなことしたらここ辞めて一生リンティ様に付いていくわ。ついでに陛下を呪ってやる!
だけど、コホッコホッとせき込むリンティ様に驚く陛下は見逃さなかった。え、その顔めっちゃ心配してるじゃないですか。ぎょっとし過ぎです。あなた本当にあの冷血陛下ですか? めちゃくちゃそっくりな双子とかじゃなくて? まぁ、でもリンティ様に感化されたのであれば納得するわ。それだけ可愛らしい素敵な方だって私はよく知ってるもの!
……あの、陛下。それで、何時までリンティ様見てる気なのでしょう……? 穴空いてしまわれますよ?
その日から、陛下は毎日見舞いにいらっしゃった。
後ろのデービス様の手にはいつも見舞いの品があって、花束、お菓子、ぬいぐるみなど様々だ。……あの、陛下。そのクマのぬいぐるみ、持ち方違います。それだと首が締まってしまいますよ。首じゃなくてお腹持ってあげてください。死んじゃいますよ、これリンティ様が見たらきっと悲しくなっちゃいますよ。
でも、不思議な事にリンティ様が眠っていらっしゃるときばかり陛下がいらっしゃる。その事に、少し残念なご様子なのは、果たして本当なのか、私の目がおかしいのかは分からない。
陛下からの見舞い品にリンティ様は少し驚かれているご様子。まぁ、今まで2回お会いしたわけだが酷いものだった。それは仕方のないものだけど、毎日持ってきてくださる事が少しずつではあるけれど、日に日に楽しみにされているようだった。
一番効果的だったのは、クマのぬいぐるみ。あの、絞め殺される寸前だったクマさんだ。リンティ様が知ったら大変だな。
「リンティ様、今日はお花でしたよ」
「お花?」
「はい、アネモネです。ピンクで可愛いですね」
「……うん」
うん、可愛い。天使。
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