◇5
◇side.リンティ
目をあけると、目の前にはだれかが一緒にねむっていた。これ、なんだろう。ふとんから少し出て見てみると……クマさんだ。ふわふわしてて、私と似た髪色の毛色。首にはリボンが付いてる。青色の、大きなリボン。かわいい。抱き心地も丁度いい。
「おはようございます、リンティ様」
「ん」
気分はいかがですか、と聞かれて、うなずいてみた。息苦しくないし、熱くもない。
このクマさん、だれのかな。そう思っていたら、クロエがおしえてくれた。
「陛下ですよ」
「へっ……!?」
へ、へいか……!?
へいか、といわれて出てきたのは、あの真っ赤なへいか。剣をもってて、手をまっかに染めてて、奥には……
「だっ大丈夫ですか!! リンティ様!!」
あわててるクロエ。大丈夫だよ、そうかえしたけれど、それでも心配そう。
「あ、あのね、ちょっとね、びっくりしちゃっただけだよ」
「びっくり、ですか……あ、あのですね、違うんです! えぇと、その……そう! トマト! 陛下はトマトが大好きなんです! とっても大きなトマトを切ってただけなんです!」
「トマト?」
「そう! ちょっと育ちすぎちゃった大きなトマトを切ってただけなんです! 最初、謁見室でお会いしたんですよね? 誰かがきっと陛下の為にお持ちしたんだと思うんです。だから、待ちきれなかった陛下が持ってた剣で切ってたんだと思うんです! も~食いしん坊ですよね~! 陛下ったら~!」
トマト……そっか、トマトか。きれいなお洋服がまっかに飛びちってたのは、トマトだったのね。へいかって、トマトだいすきなんだ。私はあまりトマトすきじゃないんだよね。でも、そんなに大きなトマトってあるんだ。今度見てみたいな。お願い……はこわくて出来なそう。
「……クロエ、どうしたの?」
「え”?」
「へんな顔」
「いっいえいえいえ! さ、ご準備をしましょうか!」
……へんなの。クロエ。
風邪をひいてしまったから、しばらくはベッドの上だった。みんながお見舞いに来てくれて、元気になってくださいねって。だから、くすりは苦いけれど、頑張れってクロエも言ってくれるから頑張って飲み込んでる。早く元気にならなきゃ。
「リンティ様、今日はお菓子ですよ」
「わぁ、キラキラ……!」
いつも、へいかがおみまいを持ってきてくれる。いつもねてる時しか来なくて、会った事はないけれど、来てくれているみたい。へいか、怖いけれど……お礼、言いたいなぁ。
私の、お父さん、って言ってた。ほんとかな。お母さんは死んじゃったって言ってた。じゃあ、血のつながった家族はへいかだけ?
「如何いたしました?」
「ん-ん。クロエ、ココア飲みたい」
「はい、かしこまりました!」
数日後、お医者さんがもう大丈夫だって言ってくれた。
周りのみんなは、何故か拍手をしていて。クロエは泣いてた。どうして? って思ってて。お医者さんは、呆れてた。
今日は天気もいい。だから、お外に遊びに行きたい。そうクロエに言うと、病み上がりなのですからあまりご無理はされませぬよう、と言われてしまって。だから、クロエと一緒にお庭散策までにした。
「クマちゃんも一緒に行きますか?」
「え? いいの?」
「えぇ、独りぼっちにしちゃったら可哀想ですからね」
「うん!」
クマさんをぎゅっと抱きしめた。お洋服も、クマさんのリボンの色とお揃いにしてくれた。ふふ、嬉しい。
へいかにお礼……言いづらいなぁ。でも、こんなにかわいいクマさんプレゼントしてくれたし……
「皇女殿下にご挨拶いたします。ご機嫌如何ですか?」
「こんにちは」
皆さん、いつも挨拶をしてくれる。偶におやつをくれる人もいるから、クロエがいつも持ってるおやつの入った籠はパンパンになっちゃうときもあって。こんなに食べれないから、近くにいるクロエと他の侍女さんたちにもおすそわけするの。よろこんでくれるから、とてもうれしい。
「とても可愛らしいクマさんですね」
「うん、へいかがくれたの」
「へ……」
「い、か……!?」
ん?
そんな顔して、みんなどうしたの?
「な、るほど……皇女殿下の好みを理解なさっているとはさすがですな、デービス様」
「あ、はは……」
デービス様? た、たしかへいかは……ロシェン・メイア……えぇと、何だっけ。長かったけど、でもデービスではなかった、と思う。
デービス……あ、秘書さんだ。私を迎えに来た人。あの人がえらんだのかな。へいかじゃ、なかったんだ。
で、でも、クロエがそう言ってたから、選んだのはデービス様で、プレゼントしようと決めたのはへいかってことだよね。
「ねぇ、クロエ」
「はい?」
「その……へいかに、お花」
「あ、プレゼントですか!」
「きらい、かな」
「リンティ様から頂いたものでしたら絶対大丈夫ですよ!」
「ほんと?」
「はい!」
ここのお花、もらっていいって庭師さんが言ってくれたから、少しもらった。私の好きな、アネモネのお花。へいか、何色が好きか分からなかったから、いろんな色を入れてみた。
リボン、しましょうか。とクロエが持ってきてくれて。あずまやに持ってきて何とかリボンを結べた。……ちょっと変、かも。もう一回結びなおす? でもリボンが変なあとついちゃうかも。
「おや、皇女殿下」
「あ!」
そう話しかけたのは、へいかの秘書さん。テオさん、だっけ。お元気そうで何よりです、って言ってくれた。
これ、どうやって渡そうか迷ってたんだけど、テオさんだったら渡せるよね!
「あのね、これ、」
「おや、誰かにプレゼントですか?」
「う、うん。その、へいかに……」
「……なるほど! きっと陛下もお喜びになりますよ!」
「ほんと!」
「はい!」
そっか、よろこんで、くれるんだ。いつも一緒にいるテオさんが言うんだから、そうにちがいないよね。
「それで、その……今、いそがしい?」
「もしかして、私がお届けを? よろしいのですか?」
「う、うん」
自分で行ったら、ちょっと怖くて渡せないかもしれないし……だったらいつも一緒にいるテオさんにおねがいした方がいいよね。
「わかりました、すぐお届けしますね」
「い、いいの?」
「はい!」
そう言って、持っていってもらえた。とっても優しい人だから、きっと渡してくれるよね。
へいか、どう思うかな。
よろんで、くれるかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます