この番組は××の提供でお送りします

島丘

この番組は××の提供でお送りします

 結成六年目。You Tubeにあげたコントがツイッターでバズり、一躍時の人となったお笑いコンビ山嵐の、初の冠番組がスタートしようとしていた。

 山嵐のボケ担当である三井とは、高校時代からの友人だ。本人からの宣伝もあり、録画ではなくリアタイで観るため、平日にも関わらず夜の一時まで起きていた。


 番組は一時半から三十分ある。番組の内容は、毎回ゲストの若手芸人を呼んで、ネタを披露。そのネタの一部分には、山嵐のツッコミ担当でありネタ作りもしている松栄がつくった箇所があり、三井がそれを言い当てるという内容だ。概要しかわからないが、聞いた感じではなかなか面白そうである。


 友人が地上波の冠番組を持つという高揚感と、純粋な期待を持って観た『お前のコントはお見通し!』の初回は、大いに楽しめた。

 初回ということもあって慣れていない部分もあったが、ゲストであるドットペンシルとの軽快な応酬や、三井が指摘した部分があっさり間違っていたこと、それに対する松栄のツッコミなど、観ていてなかなかに楽しかった。


 さすがに毎週リアタイはキツイが、まだ配信も決まっていないこの番組は録画で視聴を続けようと決意する。

 そうしている間にエンディングへと差し掛かり、また来週〜と山嵐の二人が大きく手を振って番組は終わった。

 さて俺もそろそろ寝ようかとリモコンに手を伸ばしたところで、奇妙な音声が流れ始めた。


「この番組は、ざりもつやグらの提供でお送りしました」


 何だ、何と言った?

 顔を上げるも、既に画面はトヨタのCMに移り変わっている。

 聞いたことのない提供先だ。深夜番組だからだろうか? ざりも……ぐら? よく聞き取れなかったが、奇妙な響きだ。試しに検索してみるもヒットしなかったので、やはり聞き間違えたのかもしれない。まぁ来週観ればわかるだろう。俺は大して気にもせず、布団へと入った。


 翌日、昨日の番組の感想をLINEで送った。三時間ほど経って返事が返ってきて、そのままの流れで世間話へと転じる。

 ツイッターのフォロワーが増えたことや、雑誌のインタビューを受けること。とかく順風満帆な三井の話は、変わりないモノクロの毎日を送る俺にとっては羨ましい限りだ。

 来週も見てくれよ、というメッセージを区切りに終えると、なんとなくツイッターで昨日の番組について検索してみた。少なかったが、見ている者はやはりファンが多く、好意見が多い。


 ツイートの何件かは、提供について述べている者もいた。初めて聞いた名前だ、心がザワザワする、などの感想を見つける。同じことを思っている人もいるらしい。

 今度三井に聞いてみようか。その日はそれきりツイッターを閉じた。

 仕事に勤しんでいれば、あっという間に一週間は過ぎていく。迎えた第二回目の『お前のコントはお見通し!』は、リアタイできそうになかったので録画しておいた。

 初回と同じくぎこちないながらも終始和気藹々とした雰囲気で楽しそうだ。面白いけれど、これは偶然テレビをつけたときに観るくらいでいいな、と思い始める。エンディングが流れ始めた頃、提供のことを思い出した。


 ちょうどいい。録画なら一時停止できる。確認しようとじっと画面を見ていれば、間もなく提供を述べる女性の声が流れ始めた。


「この番組は、みつへゥらみの提供でお送りしました」


 提供を述べたその時、キィンと耳鳴りがした。

 先週とは違う提供ではなかったかと思い巻き戻す。画面には、『四つ葉製薬』の文字が書かれている。再生する。

 音は流れなかった。そういえば最近は、提供の名前を告げるナレーションは少ない気がする。じゃあさっきの声は何だったのだろうか? ますます気になってきた。


 不気味に思いツイッターで検索してみると、数時間前に同じようなことを呟いている人がいた。『よっすけ』というアカウントが、とりわけ連投していた。

 プロフィールを観ると、ホラーゲームやゲーム実況者が好きと書かれている。ホーム画面に移り、上から順にツイートを見ていく。


 おりちい。

 しいな、はむめも。

 よすけろー、よすけろ、

 なぎはたの山にいるとだから言ったのにじゃん。いっと

 むつぎりさんき。さんけい

 おかす、もすわ、もずがて、

 ってらろ、ろん

 っぱおかし、

 おかしいだろ

 きもっ

 今のなに?

 提供なんていった?

 

 ツイッターを閉じた。

 翌日ツイッターを覗いてみると、よっすけのアカウントは既に消えていた。


 俺はそれ以来何となく気味が悪くなって、三井には悪いが番組を見なくなった。

 好評に思えた番組は、半年で打ち切られた。打ち切りが決まったあと、三井から連絡がきたことがある。よほどショックだったのか、明らかに様子がおかしかった。トーク画面の誤字が目立ち、普段は使わない句読点も多かったのだ。

 飲みに行くかと誘って断られて以来、もう連絡はとっていない。


 あれから半年経つ。俺は久しぶりに三井とのトーク画面を開いた。三井からきたメッセージを最後に、トークは終わっている。


 ほんとに大丈夫か?とりあえず今度飲みに行こうぜ。話聞くわ


 ごめん、。大丈夫。できないし

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

この番組は××の提供でお送りします 島丘 @AmAiKarAi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ