第56話 分担
「前衛部隊の邪魔をするな! 移動して射線を確保しろ!」
翌日のモンスター討伐。
なかなかモンスターに攻撃できていない後衛部隊に対し、誰かがそう指示をしていた。
俺たちの目の前に現れたのは昨日と同じような黒いドラゴンではなかった。
半人半牛、いわゆるミノタウロスと呼ばれるモンスターだったが、その体は10メートルを超えていた。
その図体からは考えられないほどの素早さと、巧みに得物を操る器用さも相まって、魔法隊は少々苦戦を強いられていた。
前衛部隊は刀剣やショットガンの魔法具でミノタウロスに対応していたが、激しく戦況が変わるため、後方部隊の隊員の中には援護射撃も出来ていないものもいた。
「こんなに酷いことになるとは思ってなかったぞ……」
俺の部隊は魔法隊の中でも古株な方なので、新設した部隊に比べると戦況に応じて隊員各々が柔軟に動くことが出来る。
まあ、昨日の麻里のように油断していなければの話だが。
昨日の戦いを経て油断できる状況じゃないってのは全隊員が認識していると思うので、その辺りの心配はいらない。
「多々良くん! 一旦モンスターの出現先を変えてくれ! 態勢を立て直したい!」
現在の状況があまり良くないと判断したのか、隊長は俺にそう伝えた。
すぐに俺はタブレットを取り出して、遠くの地域を出現先に設定する。
その後、ミノタウロスは無事討伐できたが、殲滅までかなりの時間を要してしまった。
◇◇◇
「これ、逆に全員後衛の方が良いんじゃないですか? 前衛の隙間を縫って攻撃するってことがなかなか出来ないみたいですし」
俺は休憩中、隊長にそう進言した。
しかし、その提案に隊長は眉をひそめて渋い顔をした。
「それだと根本の解決には至らないだろう? 戦術の幅を広げるためにも、前衛と後衛は分けて戦っておきたい。前衛を下げることはいつでもできるからね」
「そう、ですか……まさか今更になってこんな問題が発覚するとは思っていませんでしたね」
「うーん……こればかりは慣れるしかないからな……。とりあえず今は役割を変えようか。前衛部隊は下半身を攻撃して体勢を崩し、後衛部隊はその止めを刺すって形なら隊員も戦いやすいだろう」
「俺もそれで良いと思います。あと、今日の夜からは全隊員で射撃訓練を行いましょう。射撃の腕はいくら上げておいても良いはずですから」
そうして隊長は休憩時間が終わった後、隊員たちに戦術を説明した。
再びモンスター討伐を始めると、その戦術は魔法隊にビッタリハマった。先ほどまでの戦いが嘘のようにスムーズにミノタウロスを討伐できていた。
湧き続けるミノタウロスを倒し続けて3時間。時刻はすでに午後2時を回っていたので、俺たち魔法隊は遅めの昼食を取ることになった
さあ昼食を食べようか、と折り畳み式の椅子に座り込むと、なぜか隊長も俺の隣に腰を掛けた。
「さて、ササっと食べてしまおう。時間は限られているからね」
「……最近俺の隣が隊長の席になりつつありませんか?」
「良いじゃないか。今後の予定も話しやすいし……え、もしかして私と食事をとることが多々良くんにとっては苦痛だったのかい?」
隊長は今にも泣きだしそうなほど困った顔をしていた。そんなつもりで言ったわけじゃない俺は、言葉の選択を誤ったと思いすぐにフォローしようと考えた。
「隊長の隣が良いですから! そんな顔をしないでください……!」
「そうか、君が私をどれほど慕ってくれているかよく分かったよ」
「……演技ですか!?」
さっきまでの困惑していた表情が嘘のように、隊長はにやにやと笑いながら昼食を食べ始めた。どうやら俺は隊長にからかわれていただけだったらしい。
「人をからかうのはやめてくださいよ……」
悪女だ。今までも幾人の男を手玉に取ってきたんじゃないかと容易に想像が出来てしまう。
「そうそう、休憩明けからモンスターのレベルをほんの少し上げて欲しいんだ。ミノタウロスに慣れ始めて隊員に隙が出来るのは避けたいからね」
「了解です……出現させるモンスターが簡単に選択できたらいいんですけどね」
今度フランソワさんに会うことがあったら改良の余地があることを伝えておこう。
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