第52話 提案

「あぁー……癒される……」


 俺は最上階に用意された銭湯の露天風呂で疲れを癒していた。

 夕飯はかつての観光名所やレトロな建物の写真を見せ合い、皆非常に楽しそうだった。


 俺は飲まなかったが、皆酒を飲みすぎたのか軽くシャワーを浴びて自室に戻ってしまった。


 結果、銭湯は俺と王子の貸し切りになってしまっていた。 


「拓也、そういえば隊長に聞いたけどモンスターの強さを調整できるようになったんだっけ?」


「ああ、この前フランソワさんが便利なタブレットを支給してくれたんだ。これでレベル上げも効率が良くなると思うぞ」


「それじゃ後から入隊した隊員たちも今以上に強くなれるね」


「正直、札幌周辺の更地化がほとんど終わったし、一旦レベル上げに集中したいんだよな」


 緑化活動もかなり時間がかかると思うし、札幌まで到達するのはまだまだ先だと思う。それに、弱い敵ばかりを相手にしていると戦い方が雑になってしまう。


「ほら、まだ魔法隊が俺たちだけだった頃は色々危ない場面もあっただろう? ただ、そういう窮地は戦術の改善や魔法の新しい使い方を身に着ける機会になると思うんだ」


「たしかに、今の魔法隊は拓也が作った魔法具を撃ち続けるだけだもんね。邪神の力がどれほどなのか分からない以上、戦術の幅は広げていた方がいいのか……」


「そういうことだ。まあ、せっかくお前が良い拠点を作ってくれたんだし、この周辺でモンスター討伐を行っても良いと思うんだ。幸い、周りの建物はほとんどなくなったし戦いやすいだろ」


 俺と王子はその後、出現させるモンスターの強さや戦術について話し合った。

 最低でも、俺たちが最後に訪れたダンジョンはソロで攻略できるようになってもらいたい。


「気になったんだが、一体だけを出現させるとしたらどれほど強いモンスターになるんだろうな?」


「世界中の魔素が一体に集結してるってことでしょ? まあ、地球にいる間の目標はそこになるだろうね」


「その辺も隊長に相談してみるか。できれば明日から戦力の底上げを図りたい」


 そうして俺と王子は銭湯の隣に併設されたラウンジのような場所に向かうことにした。ここでは各隊員が食べ物を持ち寄ってくつろげるような空間となっている。


 ラウンジでは一人、窓際の席でウイスキーを飲んでたそがれている人物がいた。


「ちょうど良かったですよ隊長。ちょっとした提案があったんですけど今良いですか?」


「ああ、構わないよ。そうだ、君たちも一杯飲まないか?」


 そう言って隊長はボトルを掲げた。俺と王子も一杯だけなら、とラウンジの壁際に設置された食器棚からグラスを持ち寄った。


「それで、提案っていうのは?」


 隊長はウイスキーを注ぎながら俺にそう尋ねた。


「このあたりで一旦モンスター討伐に集中しませんか? 現状、新入隊員は経験が少ないですし、簡単な戦闘ばかりではいざという時に動けないと思って……」


「ああ、私も同じことを考えていたんだ。実際、函館周辺の緑地活動だけであと1か月以上はかかると連絡があったんだ。どっちみち、札幌に到達する頃には私たちは異世界に行っているだろうからね」


「へえ、やっぱり時間がかかるんですね。それなら明日からモンスター討伐でも良いですか?」


「もちろん。上には私から話しておく。ここがしばらく拠点になるし、王子が張り切ってくれて良かったと思うよ」


「僕に任せてくれたらこのくらいお茶の子さいさいですよ」


 そう言って王子はとびきりの笑顔で俺たちにウインクを飛ばしてきた。お酒が入っているからか、いつも以上にナルシスト感が増している。


「そういえば、邪神を倒したら僕達ってまたこっちに戻ってくるの?」


「多分そうじゃないか? 異世界で暮らすっていうのも悪くは無い気もするけどな」


「多々良くんも幼い頃は空想の世界に憧れたクチかい?」


「そりゃ男の子ですから。ゲームもそこそこやってましたし」


 そうして俺たちはそれぞれの来歴や趣味の話に華を咲かせた。王子が加わったことで話も大いに盛り上がり、お開きになったのは日付が変わってからだった。

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