第51話 札幌
「久しぶりお兄ちゃん!」
「おう、元気そうで何よりだよ」
札幌に到着してから実に一週間が経過したころ、俺たち魔法隊はようやく合流することが出来ていた。
俺と妹の千詠は久しぶりの再会を祝うようにハイタッチした。
「道中大きな街が多かったのか? 札幌に着くのも遅かっただろう?」
「そうなんだよね……札幌に近づくにつれて街がどんどん大きくなったんだよ」
千詠は疲労で死んでしまいそうだったと愚痴をこぼしていた。
「各隊員再会を喜んでいるところ悪いが、早速この周辺に仮設基地を建設する。建設部隊のリーダーは王子に任せるからしっかり頼んだぞ」
「任せてください!」
隊長の指示を受け、隊員たちは一斉に動き始めた。
しかし、一点だけ気になる点がある。王子がリーダーで大丈夫なのか、ということだった。
「隊長? なんでまた王子をリーダーに……?」
「これにも理由があってね。財閥が大々的に取り上げた函館の基地を見て、本当に魔法で作っているのかと色々な企業から問い合わせが殺到していたんだ。魔法省としてもそれを無視するわけにもいかないらしい」
「大丈夫ですか? 王子、張り切りすぎますよ?」
「一応今回の基地建設は映像に残して世界中に公開されるんだ。レベルを上げるとこんなことも出来るようになるっていう手本にもなるし、それなら凝り性の王子が適任だろう?」
建築業界で土魔法使いを育てるのがブームになりそうだな。レベル500ほどになれば、一般的な家は簡単に建築できるようになるみたいだしな。
そうして、魔法隊の札幌基地は着々と建設が進められていった。
俺は部隊の合流を祝うため、他の隊員の調理を手伝うことにした。
◇◇◇
「なあ、この街に滞在するわけじゃないよな……?」
目の前に建築されていく建物を見て、俺はそう呟いた。
建築が進められている現段階でもすでに10階建てはありそうなほど高い建物だ。2階まで作っている時は、まただだっ広い基地を作るつもりなんだなと考えていたが、その建物の一部からにょきにょきとビルのようなものが生えていく光景は圧巻だった。
「拓也ー! ちょっと手伝ってー!」
俺が建物を眺めていると、玄関から王子が手を振って俺を呼んでいるのが見えた。調理の手伝いから一旦離れることを伝え、俺はすぐに王子の元に駆け寄った。
「どうした? 何か問題か?」
「上までさすがに階段だけって訳にはいかないから、エレベーターを取り付けたいんだよね。魔法具でちょちょいと作ってくれない?」
「ちょちょいって……そんな簡単に言うなよな。やるだけやってみるけど」
しかしエレベーターか……あれ、結構複雑なんだよなあ。
電力がない今、魔石による駆動が前提になるが、上昇と下降を細かく設定できるような仕組みを作るのはなかなか骨が折れそうだ。
そうしてエレベーターづくりを始めてから3時間が経った頃、王子が再び声を掛けてきた。
「どう? 順調かい?」
「いまいちだな……本当は昇降の優先順位まで制御したいんだが、今のところは乗る人の譲り合いになりそうだ」
「そこまで凝らなくても、階段で移動するよりは良いと思うけどね? そういえば拓也、銭湯の魔法具持ってない?」
「持ってるけど……また銭湯作るのか?」
「もちろん! 心も体もリフレッシュしないとね!」
王子は銭湯関係の魔法具を一式受け取ると、今にもスキップしそうなほど嬉しそうに去っていた。
「さて、俺も仕上げに入るか」
そうして俺は同じ仕組みのエレベーターをもう一基作り、各階に扉を付けていくことにした。
エレベーターの設置作業が終わったころすでに基地は完成したようで、他の隊員たちは食堂に向かうところだった。
「拓也、お疲れ様」
「お疲れさん……ってか、今回も随分凝ったみたいだな?」
「銭湯は最上階に設置したから良い眺めだと思うよ。食堂も装飾にこだわったんだ」
世間の反応が非常に気になるところだ。魔法隊に建設依頼が舞い込むんじゃないだろうか。
王子に案内されるように食堂に向かった俺は、目の前の光景に目を奪われることになる。
白を基調とした内装はまるで西洋のお城をイメージさせるものだった。
天井は吹き抜けになっており、開放感あふれる空間になっていた。
中央には多人数で食卓を囲める天板の長いテーブルがいくつも設置されている。
食堂の隣には大きな調理場も備えられており、大人数が生活するのにも不自由することはなさそうだ。
「まあ、王子に任せたらこうなるよな」
そうして俺たち魔法隊は再会を祝福する宴を催したのだった。
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