第49話 財閥

「それで、国はまた知らんぷりですか?」


「いいや、今回ばかりは話を聞かなかったみたいだよ。一応我々はこの国の最高戦力だからね」


「それなら良かったです。それなら何も問題はありませんね」


「それが原因で問題が起こったんだよ……」


 そう言うと隊長は神宮司財閥の見せている動きについて説明を始めた。

 財閥は魔法隊の建造物を調べるために函館の基地を独占しているらしい。そこには白銀の騎士団も大勢連れてきているそうで、緑化活動なんてできそうにもないということだった。

 

 情報や技術の開示、そして魔法隊の隊員を財閥の傘下に置くことに躍起になっているらしく、どんな汚い手でも使ってくるだろう、という話だった。


「話に応じなければ、白銀の騎士団を使って我々に抗争を仕掛ける、と声明も出ている」


「それ、もう財閥だからと言って見過ごせる話じゃなくなってますよね……?」


 いつから財閥はテロリスト集団になっちまったんだよ。日本の将来が不安でしかない。


「だから私は頭を悩ませることになっているんだよ……! こんな忙しい時に余計な仕事を増やされて怒らないほど私は人間が出来ていないんだ」


「気持ちは分かりますけど……魔法省的には今後どうしろと……?」


「この際財閥がどうなっても構わないから好きにしろ、と。目の上のたんこぶが取れると喜んでいたよ」


「なんか人任せっぽくないですか?」


 好きにしろって言われても財閥の会長や御曹司の首を取る訳にもいかないだろう。


「可哀そうなのは白銀の騎士団だろう。上の命令でこんな僻地にやってくることになったんだからな」


「俺たちが殺されることは万が一にもあり得ませんし、とんだ無駄足ですよ」


「一応、魔法隊の回答としては土魔法で作ってる、と報告しておいた。財閥に再現が可能かどうかは知らんがな」


 いや、再現をするにも同じ建物を作るのに何年もかかるはずだぞ? あれ、王子は当たり前のようにやってたけど相当魔力を使っているはずだからな。


「面倒くさいですし、潰しちゃっていいんじゃないですか? 一企業に国が振り回されているのもどうかと思いますし」


「奇遇だな。私も同じことを考えていたんだよ」


「日本中が混乱するかもしれませんけど、各業界の二番手企業が頑張ってくれると信じましょう」


 こうして俺と隊長は話し合いの末、財閥に徹底抗戦の姿勢を見せていくことを決めた。

 魔法省の大臣にも、白銀の騎士団をけしかけるような真似をしたら武力行使で鎮圧すると財閥に声明を出すように伝えておくと隊長は言っていた。


 神宮司財閥は明らかに喧嘩を売るタイミングを間違えた。そもそも喧嘩の相手を選ぶ段階で間違えているんだけどな。


 あの隊長を怒らせて、ごめんなさいで済むわけないんだから。




  

  ◇◇◇




 翌日、隊長は魔法省の職員から渡された衛星電話を使って大臣と話をしていた。

 

 土魔法で建築している、という魔法隊の回答を財閥は信じなかったようで、白銀の騎士団を進軍させると通達があったらしい。

 

「手加減できるかどうか分からないので死にたくない方々には退団をお勧めするとお伝えください。ええ、失礼します」


「隊長、そろそろ先に進みますか?」


「ああ、時間も惜しいからな。そういえば昨日から北上部隊とも連絡が取れるようになったんだ。まだ札幌には着きそうにもないらしい」


「意外と大きい街が多いんですかね? それじゃ、俺はしばらく移送車で魔法具でも作ってますね」


 そうして、俺は移送車の後部座席に乗り込んだ。

 一種の部屋のような空間なので、くつろぎながら魔法具作りに勤しめる。


「隊長、物騒なことを言ってたよな……」


 死にたくないやつは退団しておけ、なんてボスキャラが言いそうなセリフだぞ。

 まあ、手加減出来ないっていうのには同意するけど。


「いざという時に捕縛用の魔法具でも作っておくか」


 騎士団の中には何人か顔見知りもいるし、死なれてしまっては寝覚めも悪い。

 俺は真・創造魔法を発動して漁網のような大きな網を作り出した。


 網を発射できるように、ロケットランチャー型の魔法具も作り、極小の魔石をセットできるように加工する。


「……よし、できた」

 

 即席ネットランチャーの完成である。雷属性の魔石をセットすれば、死なない程度の電流が網にとらえられた人間に流れる、という面白い仕組みだ。


「これを使う場面が来なければいいけどな……」


 そんなことを呟きながら、俺はネットランチャーを量産していった。


 その後、日が高く昇ったところで、昼食の準備を始めようと車から降りたとき、一機のヘリコプターが近づいているのが見えた。


「あれ? また魔法省の職員か……?」


 行ったり来たり随分と忙しいな……。

 俺はヘリコプターから目を離し、すぐに昼食の準備を再開した。


 しかし、様子がおかしいと気が付くのに時間は掛からなかった。

 ヘリコプターは一向に降りてくる気配がなく、上空を旋回し続けていたのだ。


 俺はその時、ようやく気が付いた。昨日来ていたヘリコプターのボディは魔っとブラックで塗装されていたが、今見えているヘリコプターは真っ白な塗装が施されていたのだ。時折太陽がボディに反射して非常に眩しい。


『聞こえるか魔法隊の諸君!』


 その時、上空のヘリコプターからそんな声が聞こえてきた。拡声器を使っているのにも関わらず叫んでいるようで、若干音割れを起こしている。


『我々は神宮司財閥だ! 君たち魔法隊の魔法、技術独占に我々は断固反対する! 降伏しなければ我々直属の探索者、白銀の騎士団が諸君らを制圧することになる!』


「ああ……馬鹿が早くも迷い込んだみたいだな……」





 


 


 


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