第46話 迫撃
「綺麗な街だな……」
江差を出発してから2日目。俺たちは札幌まであと僅かというところまで進んでいた。
明日には札幌に到着できそうだ。かなり良いペースで進んできたことになる。
移送車に乗ってたどり着いたのは、大昔に小樽と呼ばれていた街らしい。
建物の老朽化は進んでいるが、写真で見たような昔の街並みが所々残っている。
「これも全部取り壊すなんて勿体無いですよね……」
窓の外を眺めながら、里沙はそんなことを口にした。確かに勿体無いというのは俺も同意見だ。
「どの街も自然に還るんだ。そればかりは仕方ないさ」
俺もこんな綺麗な街並みは初めて見た。ただ、だからといって壊さないわけにもいかない。
「日本も今は殺風景なビルばかりになってしまったからな……。趣なんてとうの昔に忘れ去られたのかもな」
「こういう街、私はもっとあっても良いと思うんですよね……」
邪神を倒すことができたら王子なんかを連れて色々な街の開発でもやってみたいな。魔力があれば自由に建物が建てられるし。
「さて、この辺で車を停めるか。モンスターも結構な数がいそうだよな……」
井田に車を停めるように言った俺は一足先に外に出てある魔法具を空間魔法から取り出した。
取り出したのはいわゆる迫撃砲、というものを参考に作った新型の魔法具だ。
街の被害を考えなくても良い状態であれば、こいつで適当に砲撃しまくれば街も取り壊しモンスターもあっという間に殲滅できる。まさに一石二鳥の魔法具だった。
「井田、どんどん撃っていくから砲弾とマガジンを用意しておいてくれ」
「了解しました」
ただ、この魔法具には一つ欠点があった。発射の際のエネルギーにライフルなんかのマガジンが使えるように互換性を持たせているのだが、1発撃つごとにリロードが必要になる。そして攻撃に使う砲弾も別途必要になる。威力が桁外れな分、消費する魔力や弾も一人前ってところだ。
「よし、お前ら耳を塞いでおけよー? 麻里は一応土魔法で壁を作ってくれ」
俺はマガジンをセットして、防音のために耳栓を付けた。
そうして、俺は迫撃砲に備えられたレバーを倒した。
迫撃砲型の魔法具は発射の時でさえもドゴオオオオン、という激しい音を鳴らす。その分、飛距離や弾速もかなりのものだ。
「おー、行った行ったー」
「何メートル飛ぶんですか……?」
「2、300は当たり前に飛ぶぞ? それに自慢は飛距離じゃない」
俺がそう言ったと同時に、着弾したと思われるところでピカッと激しい閃光が走る。
次の瞬間、目に見えるほどの衝撃波と共に激しい爆発音が俺たちを襲った。
「隊長! なんて物を作ってるんですか!?」
その様子に井田は半分キレ気味でそう言ってきた。
「いやあ……壁がなかったらみんな吹っ飛んでたな」
「外国と戦争でもする気ですか!? 一瞬で街が吹っ飛んだんですよ!?」
井田に促されるように壁の影から出ると、少し離れた場所から奥は瓦礫の山が積み重なっていた。砲撃の衝撃波で老朽化していた建物があっという間に崩れてしまったらしい。
「……効率良いよな?」
「「効率なんてどうでもいい!!」」
その後、俺は隊員達から厳しくお説教を喰らうことになってしまった。俺、一応この部隊の隊長なんだけどな……。
◇◇◇
街が消し飛んでしまったから1時間が経った頃、他の部隊が小樽に到着した。
すでに日が沈み始めているので、今日は小樽で一夜を明かすこととなった。
「それで多々良くん、私に何か報告することは無いのかな?」
夕飯を食べ終わり、すぐに自分のテントで休もうと思っていた矢先、横に座っていた隊長にそんなことを言われてしまった。
にっこりと微笑んでいるのだが、目の奥は全然笑っていない。
「ナンノコトデショウカ?」
「嫌だなあ多々良くん、言われなくても思い当たる節はあるんだろう?」
おそらく迫撃砲の事なんだろうが……なんで怒られなきゃいけないの? 強い魔法具をたくさん作るのが俺の仕事なのに……。
俺は諦めて開き直ることにした。
「迫撃砲のことですよね? 我ながら良いものを作ってしまったなあと……」
「開き直られても困るんだよ。いや、魔法具を作ることを悪いと言っているんじゃないんだ。君の作る魔法具は素晴らしいが、あまり派手なものを作っているとすぐに上から探りを入れられてしまうからな」
そう言って隊長は不機嫌そうな表情を浮かべた。やはり、魔法隊隊長として色々頭を抱える点が多いようだ。……そこに俺も入ってそうだが。
「まあ、将来への投資ってことで大目に見てください」
「まったく……君は慎重な性格なのか大雑把な性格なのか未だによくわからないな……。札幌では迫撃砲は封印しておいてくれ。隊員の魔法で十分間に合うからな」
「じゃあ俺は札幌に着いたら魔法具の開発でもやってますよ。他にやることもないし」
俺はそう言いつつ自分のテントに戻ろうとした。
しかし、隊長は立ち上がろうとした俺の服を掴んで、無理やり椅子に座らせた。
「……まだ何か?」
「そう嫌な顔をするな。多々良くんも飲めない方では無いだろう?」
ニヤリと怪しく笑いそう言った隊長の右手にはウイスキーのボトルが握られていた。
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