第44話 出発

「よっしゃあ! 完成した!」


 俺は最後の1台を完成させると、大の字で地面に横たわった。

 完成と同時にホッとしてしまって今にも眠りそうになる。

 目の前には頼まれていた新型移送車が13台ズラッと並んでいる。その光景はまるで車を販売するディーラーのようだった。


「多々良くん、お疲れ様」


 最後の1台の完成を待っていたのか、いつの間にか現れた隊長が横たわる俺を覗き込んでそう言った。


「俺もう帰って寝て良いですか? ほぼ徹夜でもう死にそうです……」


「大丈夫。多々良くんのレベルでは死ぬ方が難しいだろう?」


 いや、多少は頑丈になったけど精神面は関係ないですからね?


「疲れている多々良くんには悪いんだけど、この周辺の埋め立てが終わってしまったんだよ」


「……ということは?」


「すぐに出発するから準備してくれ」


「ブラック企業じゃないですか!?」


 どうやら、俺を休ませてくれる気はさらさらないらしい。



  ◇◇◇



「あ、たくや。おつかれさまー」


 俺がふらふらと倒れそうになりながらも事務所に向かうと、すでにほとんどの備品が無くなっていた。


「マジックバッグが完成していて良かった……」


 最近、俺はようやくマジックバッグの作成に成功していた。隊員たちはすでに倉庫の食糧などもマジックバッグに収納しているそうだ。これで俺が何時間もかけて搬入、搬出作業を行う必要が無くなったのだ。


「沙織、基地を引き払う準備はもう済んでいるのか?」


「だいたい?」


「……なんでそこで疑問形なの? お前、一応副隊長だよ?」


「お菓子食べてたら机とかどんどん片付けられてたよ?」


「さぼってたんじゃねえかよ! ったく……なるべく早く出発したいみたいだったから沙織も手伝えよ?」


 俺にそう言われて、沙織は渋々といった形で事務所の引き払いに参加していた。

 

 それからしばらくすると完全に基地の引き払いが終わり、隊員たちは新型移送車の前に集まっていた。

 しかし、多くの隊員たちが新しい土地の探索にやる気を見せる中、王子は去ることになった魔法隊基地の方を眺めていた。

 

「なんだか、寂しくなるね」


「ん? そうか? また新しい街に行くんだし、いちいち感傷に浸っている暇も無いだろう?」


「うわ、拓也ってモテないでしょ? 僕みたいなロマンチストを見習った方が賢明だよ」


「余計なお世話だ!」

 

 お前の場合はロマンチストじゃなくてナルシストだろう。お前を見習いたくはないな。


「ちゅうもーく!」


 そんなことを王子と話していると、隊長が隊員の注目を集めるためにそう叫んだ。


「ここからは2部隊に分けて北上し、遅くとも2週間以内に札幌という地域に向かう! 2部隊はそれぞれ西の沿岸沿いに進む部隊と北上する部隊に分ける。街を見つけ次第、更地にする部隊と先に進んで討伐する部隊に分かれて効率よく進んで欲しい!」


「「了解!」」


「それじゃあそれぞれの部隊を発表していくぞー」


 そうして、隊長は北上する部隊から順に発表していった。

 俺たちの第三部隊は西の沿岸を進む部隊に配置されることになった。


「……西の沿岸部って、意外と街は少なそうだな」


「いいなあ拓也……。僕の方は北上する部隊に配置されちゃったよ。函館からしばらくは街が続いているみたいだから、先に進むのは結構先になりそうだよ」


 王子はそう言って大きく肩を落としていた。

 

「いいじゃん、お前の魔法大活躍だし。目立つの好きだろ?」


「それとこれとは話が違うよ……。僕、壊すより作るほうが好きなんだよね。各地にリゾートホテルでも作っていこうかな……」


「北海道を観光地にしちゃ元も子もないだろう。どうせ将来的には仮設基地も壊すことになるんだから張り切りすぎるなよ?」


 こいつの場合、釘を刺しておかないと本当に都市開発を進めてしまいそうで怖いからな。


「それじゃあ西沿岸の部隊は私が、北上する部隊は立花くんが指揮を執る。各隊員移送車に乗り込んで出発の準備にかかってくれ!」


 隊長のその一言で、各隊員は一斉に動き始めた。

 俺もすぐに移送車の助手席に乗り込み、シートの背もたれを倒した。


「いやいや、隊長? 寝る気満々なんですか?」


 俺のその行動を見て、運転席に乗り込んだ井田は目を見開いていた。


「だってほぼ2日間徹夜だぜ? いい加減寝させてくれよ」


「一応モンスターも出るんですからね? 危なくなったらたたき起こしますよ?」


「危なくなる場面になったらそもそも呑気にドライブなんかできる状況でもないだろ。そうなったら自然と目も覚めるだろうし、俺はとりあえず寝る」


 井田の必死の説得も聞き流し、俺は目を閉じた。

 

 こうして、俺たちはしばらく滞在していた函館を後にした。

 きっと緑化活動でくる公務員たちは驚くことになるだろう。港にポツンとたたずむ建物は一種の旅館のようなものなのだから。

 

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