第11話 勝負

 一足先に練習場に向かってしまった鈴石の後を追うように、俺たちも歩き始めた。

 

「拓也、それが君の魔法具かい? まるで本物の銃みたいだね」


「まあな。この方がイメージしやすいし扱いやすいからな」


 王子は魔法具に随分興味があるらしく、練習場に着くまでずっと質問攻めにあってしまった。まあ、こうやって人一倍声を掛けてくれるので、すぐに打ち解けてため口で話し合う中になったのだが。


「俺はその武器が気に食わんな。俺の筋肉が喜ばん」


 そんな俺たちの話を横で聞いていた立花さんはフン、と鼻を鳴らし不快感をあらわにした。

 魔法隊では最年長になる立花さんは筋肉ムキムキの大男である。顔もかなり威圧感があるので、街中を歩けば近づいてくるやつもいないだろう。

 欠点は、筋肉のことしか考えられない脳筋ってことだな。


「そんな魔法具を使うからお前もそんな情けない筋肉しか付かないんだろう。戻った後、俺が筋肉についてしっかり教えてやろう」


「いやあ、それはちょっと遠慮しておきますよ……」


 絶対ろくなことにならないと思うので丁重にお断りしておく。ムキムキになんてなりたくないし。


 そんな話をしているとどうやら練習場とやらに着いたようだ。

 しかし、そこは普通のだだっ広い空き地のように見えた。真ん中に金属の的のようなものが立っている以外は特段変わった様子もない。


「これが練習場、ですか?」


「今のところ魔法省には予算があまりついていないからな。節約できるところは節約しなければならない」


 だからって……もう少しまともな場所は無かったのか?


「新人。来るのが遅いのよ」


「先に着いていただけで偉そうに……」


「フン。その減らず口も私の魔法を見たら叩けなくなるわよ」


 そう言って鈴石は的に向かって右手を構えた。

 魔法隊に不満があるとすればこいつの存在だな。初対面のはずなのにやけに突っかかってくるし。


「早くしろよ」


「だ、黙ってなさい! 集中できないのよ!」


 俺も言われっぱなしでは気が済まないので、軽くヤジを飛ばした。

 しかし、鈴石も準備が整ったのかすぐに魔法を発動した。鈴石の周りには視認できるほどの熱気が立ち込めているのが分かった。


「ハアッ!」


 そんな掛け声とともに、鈴石からとんでもない大きさの火の玉が放出された。おいおい、車くらいの大きさがあるんじゃないか……?


 放出された火の玉は的に着弾すると、ドカアアン、という音と共に激しい爆発を引き起こした。当然、後ろで見ていた俺たちにも爆発の余波がやってくる。

 巻きあがった砂ぼこりが収まり、再び的に目を向けると金属でできたいかにも頑丈そうな的は粉々に砕け散っていた。


「……魔法ってこんなに威力が出るものなんですか?」


 いやいや、チートでしょこんなの。俺の魔法具とは比べ物にならないぞ?


「はあ、はあ、どうかしら? 私の魔法は?」


「いや、素直にすごいと思うぞ? こんな威力の魔法は初めて見たし……」


「フン、当然よ」


 そう言うと鈴石は腕を組んで勝ち誇ったような表情を浮かべた。

 俺もあんな威力が出せる魔法具を作れるだろうか。


「まったく、的を粉々にしてどうするんだ。多々良くん、少し待っていてくれ」


 隊長はそう言うと立花さんを連れて、新たな的を取りに向かった。

 そうして、新たな的が準備されたところで俺は新作の魔法具を用意した。


「早くしなさいよねー」


「文句があるなら先に帰ってろ!」


 さっきのお返しと言わんばかりに鈴石がヤジを飛ばしてくる。

 俺は気にしないことにして、ライフル型の魔法具を的に向ける。


 今回の魔法具は、そこまで威力を意識していない。魔石に含まれる魔力をなるべく消費しないように、というのがコンセプトだ。


 俺は試験的に引き金を引く。ドドドド、と引き金を引いている間は弾が発射されるフルオート式の魔法具だ。


「ほら、やっぱり大したことないじゃない」


「やかましい! 威力重視じゃないんだからこんなもんなんだよ!」


 的に弾が当たると小規模の爆発を起こすことが出来たが、鈴石が放った魔法には到底かなわない。まあ、実際のライフルよりも爆発がある分威力はあるんだが、鈴石の魔法を見た後だとどうしてもしょぼく見える。


 俺は、今回のコンセプトである魔石の耐久度について引き続き実験することにした。

 引き金を引き、ひたすら弾を発射する。

 反動も少ないので撃っていて疲労がたまることも無い。火薬を使わない魔法具のメリットでもあるだろう。

 しかし、様子がおかしいことに気が付いたのは5分後のことである。


「……多々良くん、いつになったら終わるんだい?」


「それが分からないんですよね……」


 そう、魔石の魔力がいつまで経っても消費しきれないのである。

 コンセプト通りの設計であるということは証明できたが、想像以上に時間がかかっていた。


 ようやく魔石の色が無色に変わり、魔力が無くなったことを知ることになったのはさらに5分が経過した時だった。


「……どうでしょう?」


「「おかしいだろう(でしょう)!?」」


 俺に敵対心を燃やしていた鈴石を含め、その光景に全員が唖然とした表情を浮かべていた。

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