第10話 新作
「おい、大丈夫か?」
藤井さんに体をユサユサと揺さぶられて、俺は目を覚ますことになった。
たしか、あの子供みたいな神と話していて……。
「俺、どれくらい意識を失っていましたか?」
「いや、一瞬その場に座り込んでいただけさ。その様子だと、『神託』を受けてきたようだね?」
「ええ。考えてることが読まれるのでプライバシーもクソもあったもんじゃないですよ」
「ああ、私もあれには正直参ったよ……。とりあえず今日はこの辺りで引き上げようか。一応君は戦闘員ではないし、無理にレベルを上げる必要もないからね」
そう言って藤井さんは今まで進んできた道を折り返した。
神って本当にいるんだなあ、なんて考えつつ俺は藤井さんの後に続いた。
「ところで、藤井さんのことは隊長と呼んだほうが良いんですか?」
「別に好きに呼んでくれて構わないよ。名前でも隊長でも……美帆って呼んでくれても構わないんだぞ?」
「じゃ、隊長で」
「……私の好意をばっさり切り捨てられると少し傷つくんだが?」
一応上司にあたるし、そもそも年齢イコール彼女いない歴の俺には女性を下の名前で呼ぶことに抵抗がある。絶対馬鹿にされるので言わないけどな。
そうして、俺たちはほとんどモンスターとは戦闘を行わずに地上に戻ることにした。
◇◇◇
「さて、本業に手を付けるかな……」
魔法隊の事務所に戻ってきた俺の机には、様々な色の小石がたくさん積みあがっていた。
ゲームでもよくある、魔石というものらしい。ただ、隊長曰く自分たちでは何かに加工するというようなことができなかったようだ。
そんなときこそ、魔法隊エンジニアの俺の出番である。
「多分色が分かれてるってことは、魔力の属性みたいなものがあると思うんだよなあ……」
もちろん、今までこんなファンタジー溢れるアイテムを見たことも無いのでただの予想ではあるんだが。
俺が今日の戦闘で倒したモンスターからドロップした魔石のほかに、今まで魔法隊で集めたものが別の部屋で保管されているらしい。つまり、材料をちょっと無駄にしたところで怒られることも無いということだ。
「とりあえず、色々実験してみるか」
――三十分後
「……やべえ、アイデアが溢れ出てくる」
実験を終えた俺は、魔石の可能性に胸を膨らませて年甲斐もなくワクワクしていた。
魔石の実験で分かったことはいくつかある。
まず魔石の色についてだ。俺の予想通り、魔石ごとに色が違ったのはやはり属性を表していたらしい。赤い小さな魔石を基にした魔法具では、ターボライターのような威力の炎を出すことができた。
他にも青い魔石は水が出たし、緑の魔石は風を起こすことができた。
そして、俺が魔石に大きな期待を抱いている理由は他にもある。
「魔力のいらない魔法具なんて、使い勝手抜群だよな」
そう、魔石を基にした魔法具は魔力を込めずとも効果が表れたのだった。
本来込めるはずの魔力を、魔石から吸収しているイメージだろう。
魔法を使い続けるといずれ魔力が少なくなり、いざというときに魔法が使えないなんていう場合もあるかもしれない。しかし、この魔石式魔法具を使えば魔力の心配はいりません!
ただ、もちろん魔石にも欠点はある。
魔石に含まれた魔力を消費してしまうと、魔法具が使えなくなってしまうのだ。
なので、魔法具は改良して魔石を交換できるような形にしなければならない。
しかし、そんな問題は無いに等しい。俺の頭の中には無数のアイデアが湧いてきていた。
「よし、こうなったら作りたい魔法具があるんだよなあ」
そうして、俺は創造魔法を発動した。
創造魔法を使うには、頭の中で緻密にイメージを膨らませる必要がある。想像力が足りないと、魔力を通しても発動しなかったり、歪な形の魔法具が出来上がってしまう。
俺はインターネットで資料を眺めつつ、魔石が使えるような形をイメージして設計図のようなものを頭の中で組み立てていく。
そうして、ゆっくり、慎重に創造魔法を使い10分ほどが経ったとき、ようやく新作の魔法具が完成したのだった。
「……よし! できた!」
魔法具を作るにしても、日曜大工で家具を作るにしても、この完成した瞬間の高揚感に勝るものは無い。
喜んでいる俺の前には、赤い魔石が取り付けてある魔法具が完成している。
「多々良くん、すごい集中力だったね。何度か声を掛けたんだが……」
「え!? すみません……昔から集中し始めると周りが見えなくなってしまって……」
どうやら、俺は隊長の声掛けにも応じずに魔法具作りに勤しんでいたらしい。これは昔からの悪い癖で、よく妹の千詠にも怒られていた。
「ところで多々良くん。その物騒な見た目の魔法具は何だい?」
「あ、そうそう! 新作の魔法具ですよ! 赤い魔石を装着したので、そこそこ威力も出ると思うんですよね」
「だからって……それじゃ本物のライフルのようなものじゃないか……」
そう、俺が今回作成したのはライフル型の魔法具だった。なぜこういった重火器にこだわるのか、という点に関しては単に俺の個人的な趣味だからだ。
「ちょっと実験してみたいんですけど……。実際このサイズの魔石でどれほど使い続けられるのかも気になりますし」
「ああ、それなら魔法の練習場がある。案内するからついてこい」
そうして俺が隊長と練習場、とやらに向かうことにして事務所を出たとき、訓練から帰ってきた隊員たちとばったり鉢合わせした。
「隊長、魔法隊の王子が颯爽と帰還しましたよ」
キラン、と効果音が出るほど眩しい笑顔でそんなことを堂々と言える王子には少し尊敬してしまう。その自信はどこから出てくるんだよ。
「はいはい、お疲れさん。多々良くんが新作の魔法具を作成したからその実験に行ってくるよ」
隊長がそう説明すると、一人だけ気に入らなそうな表情を浮かべる人物がいた。
「へえ……じゃあ、新人のお手並み拝見ってことですよね?」
「そうなるな。早紀たちも見に来るか?」
「もちろん。ついでに私の実力も見せつけてあげるわよ。早くしなさい、新人」
なぜか俺を目の敵にしている鈴石早紀は、そういうとスタスタと先に歩いて行ってしまった。
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