第19話 クラスメイトと話せない僕が嫌いだ

 クラスでの球技大会の話し合い。今は誰がどの競技に出るのかを決めるところだ。


 そんな中で僕は、クラスで球技大会の話し合いをしている中で考える。


 考える事は二つ。

 

 一つは、自分のこの気持ちが何なのか。

 改めて考えてみても、剣崎の言った勝負を僕が受ける必要はない。三谷さんとはむしろ今以上に関係を深くしたくない。九条さんに拒否されてしまったせいで、これ以上手がないと思っていたけど、三谷さん自身が誰かと付き合うというなら話は別だ。

 どれだけ仲が良くなろうが、恋人が出来れば関係性はそちらの方が重くなる。そうなれば必然的に僕ともあまり関わらなくなる。


 だけど、別に三谷さんが嫌いというわけじゃない。ただ僕と仲良くしてほしくない、信頼してほしくないというだけで、不幸な目にあってほしいわけじゃない。


 だから、僕のこの気持ちは『剣崎は三谷さんとは釣り合わない』という直感から生まれたものだと説明がつく。


 三谷さんは表裏がなく純粋という言葉がぴったりな性格だ。

 剣崎はその逆。表の顔と裏の顔をハッキリと使い分けている。それは、さっき屋上で話した時に確定したことだ。


 そんな二人の相性がいいはずがない。

 

 もちろん、これは僕の勝手な妄想で、実際には意外にお似合いのカップルになるのかもしれない。

 ただ、これはあくまで直感。そもそも剣崎の告白は元々は僕がどうこう出来る問題ではなかった。言ってしまえば、剣崎は僕に妨害のチャンスをくれたわけだ。

 物語で言う悪役のように、自分の前に立ちはだかれと。


 剣崎の言うとおりになるのは癪だけど、チャンスをくれるというなら乗るまでだ。


 三谷さんには……こんな僕のことを気にかけてくれる三谷さんには、幸せになってほしいから。


 なら、やることは一つだ。

 剣崎に勝つ。向こうから言ってきたことだ。自分で約束を破るなんて真似はしないはず。


 そこで、考えるべき二つ目。どうやって剣崎に勝つかだ。

 

 剣崎はサッカー部のエース。バスケを選んだのは僕との勝負でフェアにするためか、あるいは生徒会からストップをかけられたのか、そこは不明だが、僕としてはありがたいことだ。


 それでも、帰宅部の僕と運動部の剣崎では、運動能力の差は歴然。一対一の勝負ならスポーツでは勝ち目は皆無だった。

 

 だけど今回はチームスポーツ。そして、球技大会にはそのスポーツの部活をしている生徒は一人までしか参加できないルールだ。そして、僕と剣崎のお互いのクラスにはそれぞれバスケ部のレギュラーがいる。


 バスケ部員がより動きやすいプレーをすれば、勝てる可能性は出てくる。あくまでもだが……


「どうかしたの?そんなに眉間にしわを寄せて……」


 隣に座っていた清水から小声で声をかけられる。授業中に向こうから話しかけてくるとは珍しい。


「いや、球技大会でどうしようかと思ってな。」


「えっ、どうしたのあんた。こういうイベント、いつも渋い顔で避けてたのに。」


「僕いつもそんな顔してたのか。」


 自分では顔に出していないつもりだったんだけどな……。


「それにしても、そんなことよく気付いたな?」


「えっ!あっ、いや、違うからね!別にあんたをずっと見てたとか、そんなんじゃないから!」


 清水が顔を赤らめて慌てる。


「だれもそんなこと言ってないだろ……。」


 まぁ清水のこの妙な反応にももう慣れてしまったが。


 清水は自分の手を胸に当て、深呼吸をして気を落ち着かせる。


「えっと……それで?あんたは何に出ようと思ってるの?」


「バスケ」


「即答って……あんたもしかして結構本気でやろうとしてる?」


「まぁ、色々事情があってな。勝たなきゃいけない相手ができた。」


 隠すわけじゃないが、自分自身はともかく、他の誰かを納得させる説明を出来る気がしない。


「それじゃあ、次、バスケやりたい人!」


 クラスの司会役が声を上げる。


 僕はここぞとばかりに手を挙げる。周りを見ると、バスケ部のやつは当然、同じように手を挙げている。


 全部で4人。しかし、僕以外にバスケ部員でない人はいない。さっきもサッカーに出るのに手を挙げた人も見たが、それもサッカー部の部員だけだった。


 バスケでは控えも含め、8人が選ばれるため、この時点で僕はバスケをすることに決定した。


 少し考えてみれば分かることなのだが、球技大会ではそれぞれの種目の部活に入っているやつらばかり目立つ。

 球技大会を楽しみにしているクラスメイトもいるけど、何でもいい、という意見が過半数を占めている。


 こうなると、練習に誘ったとしても断る人が多いかもしれない。


 やっぱり、バスケ部員のやつとの連携を中心に練習するしかない。


 そして、それを実行するには大きな問題が一つ。


「どうやって話しかけたらいいんだ……?」


 心の声が漏れ出る。


 そもそも、僕にはクラスメイトの友達はいない。誰とも関わろうとしなかったし、今まではそれでも別に困らなかった。


 けど、今になって分かる。こういうイベントは僕のようないわゆる『ぼっち』をクラスに馴染ませようとしていると。


 現に、僕は今クラスメイトに話しかけようとしている。


 いや、冷静になれ。練習はバスケ部の連中が言い出すはず。


 そう考えて時を待った。


 周囲の学生の行動に注意しながら、淡々と話しかけられるチャンスを伺う。



 その結果…………


 僕は惨敗した。


「いつまで惚けた顔してんのよ。もう昼休みよ。」


「えっ……あっ、ああ、悪い。」


 清水に声をかけられるまで、僕は話し合いが終わったことにも気付かずに、なぜこうなったのか、頭を悩ませていた。

 いや、考えてみればごく単純なことだ。友達じゃないから声をかけられなかった。それだけのこと。


「……なぁ、清水。友達ってどうやって作るんだ?」


「それ、あたしに聞くのかしら?」


 片眉をピクピクと動かして、苦笑する。

 そうだった。最近は僕と違うところばかりに注目していたが、元々清水とは同士という点で親近感を持っていたんだった。


「えっと……ごめん。」


「謝んないでよ。余計惨めに思えてくるじゃない。」


「でも、確かに改めて聞かれると、友達を作るのって結構難しいですよね。」


「そういうものよねー。」


「……」


 ナチュラルに三谷さんが会話に参加してきた。清水はそのことを気にも留めていないみたいだし、僕も特に指摘はせずに話を進める。


「でも意外だな。三谷さんは友達作りとか得意そうに見えるけど。」


「そんなことないですよ!私だって、中学の頃はなかなか友達ができなくて……ようやくできたのが3年生の頃でしたから。」


 それを聞いて、少し驚いた。三谷さんはそういう人付き合いの悩みとは無縁の人だと思っていたからだ。


 三谷さんとは住む世界が違うとさえ思っていたけど、少しだけ親近感がわいてくる。


「三谷さんはどうやって友達を作ったんだ?」


「私はとにかく話しかけました!中学では小学校からの友達とかはいなかったですし、クラス内のグループがすぐできてしまったので、話しかけられるってことがなかったんです。」


 自信満々に言う姿を見て、少し笑いそうになる。


 なるほど、いかにも三谷さんが考えそうなことだな。


「そっか……ありがとう、三谷さん。ちょっと試してみるよ。」


 僕は席を立ち、球技大会のチームメイトのもとへ歩いていった。

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