第12話 子供嫌いな僕が嫌いだ①
君は苦手なものはあるだろうか?
僕が何より嫌いなものはもちろん僕だが、そうではない。苦手なものだ。
苦手と嫌いは違う。嫌いだけど得意、好きだけど苦手というものはよくある。
僕の場合、前者はチームスポーツ。
嫌いな理由は、自分と仲間を比べてしまって嫉妬や己惚れが生まれるから。
得意な理由は、僕自身が少し人より視野が広いから。普段から、誰とも関わらないように周囲を見ているせいか、見えている視界の端から端まで全体に意識を向けることが出来る。おかげで、『誰かにあわせる』ことが得意で、そのスポーツが上手い人がチームに一人でもいれば合わせることが出来る。
そして、今、話さなければならないのは後者。好きだけど苦手なものの話だ。
誰もがその時期を体験し、誰もが必ず通るもの。表裏がなく、合理性もなく、弱さを抱えたもの。それは……
「おねーちゃーん、もっかいよんでー」
「向こうで遊ぼー」
「だっこしてー」
三谷さんと清水に群がり、僕には見向きもされない。
そう、これが僕の隙だけの苦手なものの一つ。『子供』だ。
昔から、何かと子供には避けられる。
僕自身は子供は嫌いじゃない。自分の気持ちを簡単に表に出せるのは子供ならではのものだ。何か裏があるんじゃないか、とか考える必要もない。あったとしても顔に出るからすぐ分かる。そういうのもあって、庇護欲を掻き立てられるのもよく分かる。
でも、いざ関わるとなると面倒なことが多い。会話が通じないこともあれば、突然泣き出すこともある。端的に言うと、手が付けられない。
だからこそ、いつも子供とは関わらないように注意していたのに、まさか三谷さんの言っていたボランティアの内容がまさか児童養護施設に関わるものだったとは。
───遡ること数時間前。
僕は三谷さんから以前言っていたボランティアの体験の件で、駅前の噴水で待ち合わせする連絡を受け、一人待っていた。
日曜日ということもあり、人が多い。集合時間まであと15分。少し早く着きすぎたかもしれない。
ちなみに、これからどこに行くのか、というのは僕も知らない。三谷さんによると行ってみてからのお楽しみという事だった。
一体何を考えているんだか。まぁ何だろうと、参加することに変わりはないから、別にいいんだけど。
「あら、アンタが一番乗り?ずいぶん早いじゃない。もしかして、実は内心だと楽しみにしていたりするのかしら?」
悪態をつきながら、最初に現れたのは清水だった。
まだ時間には余裕があるはずだが、急いでいたのだろうか?少し汗ばんでいる。
いつものおさげの髪型とは違い、少し高い位置で髪をまとめている。ポニーテールというやつだ。
そして、服装もいつもの制服のスカートと違い、スタイリッシュなジーンズに、ゆったりとしたラフな服装。
清水のこんなおしゃれな姿は見たことがない。こうしてみるとかなり大人っぽく見える。
「冗談を言うな。早く着いたのはただ単に僕が15分前行動をするってだけだ。」
「そこはふつう5分前行動っていうところでしょう……。」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
沈黙が続く。前の放課後の帰りと同じだ。お互いあまり話すタイプじゃないのもあって、話題が尽きるまでが早い。
ただ今回に限っては、清水が不満げに僕が何か話すのを待っている……気がする。
「えっと、何だ?」
「女の子と待ち合わせして、何か言うこととかないの?」
「は?えっと……こんにちは?」
「殴るわよ?」
「すみません……」
理不尽に思えるけど、清水はこうなったら口答えした方がよくない。
「……はぁ、もういいわ。あんたに普通の男子の反応を期待した私がバカだったわ」
ジト目を向けられ、何だか申し訳ない気持ちになる。
女の子と待ち合わせして言うこと?さっきの場面で?
……いや、まさかな。別にこれは清水と二人での待ち合わせ、ってわけじゃない。三谷さんもそのうち来るし。
でも今の反応。おしゃれした姿。もしかして……。
「あー、えっと、清水。」
いざ言うとなると少し、いやかなり恥ずかしいな。でも、それで清水の機嫌が直るなら別にいいか。
「その服、似合ってるぞ。」
清水は少し驚いた顔をすると、すぐに僕とは反対に顔を向けた。おかげで表情は全く見えない。
「別に、アンタに褒められたって嬉しくないわよ。」
「はいはい、分かってるよ。」
後ろを向いていても、清水の耳がさっきより赤くなっているのは分かる。どうやらこれで正解だったみたいだな。こういうのはカップルがするものだと思っていたんだけど、そういうわけでもないみたいだな。覚えておこう。
「清水さん!矢田くん!お待たせしましたー!」
駅の方から小走りで来るのは三谷さんだ。というか、清水もだけどなんで遅れたわけでもないのに急いでくるんだ?
「時間通りですね、二人とも流石です!」
「そこまで言われるほどのことじゃないと思うけど……」
でも、こうしてすぐに他人をほめられるのはなんだか羨ましく思う。
人を褒めることが出来るのは、その人のいいところを見ているからだ。それに、三谷さんのような素直な人に打算なしで褒められるなら、それは誰にとってもとても嬉しいことだろう。
その証拠に、清水は少し嬉しそうだ。
「矢田くん!」
「どうした?」
「どうですか?」
三谷さんは手を広げてくるくると回り、服を見せつけてくる。もしかして、清水と同じように何か言ってほしいのか?
今日の三谷さんの髪型はハーフアップ。服装は動きやすいゆったりとしたデザインで、何というか女子高生らしい。
「うん、似合ってるよ、もちろん。」
「えへへ、ありがとうございます!」
僕が褒めた途端、隣にいた清水から軽く肘でわき腹を突かれる。
「なんだよ?」
「別に~~?」
清水はプイッとそっぽを向く。女子って面倒くさいな。
「じゃあ、早速行きましょうか。今回は私の父の知り合いが運営している場所でボランティアをするので!」
そうして、僕と清水は三谷さんに連れられて、ある施設へと向かった。
〇●〇
着いた先は児童養護施設。それなりに大きなところで、建物の前に立っている今の時点で、かなりの子供の声が聞こえてくる。
「三谷さん?ボランティアってまさか……」
「訪問ボランティアです!子供たちと遊んで、一緒に色んなことを体験してあげる。それだけで、子供たちは喜んでくれますから。」
「は、はぁ……。」
「矢田君は子供が嫌いですか?」
「……嫌いではない。むしろ好きな方だ。だけど……」
「なら、大丈夫そうですね。あ、私はここの代表の方に挨拶してくるので、皆さんは先にあの建物の中に入っていてください。」
「あ、ああ、分かった……」
三谷さんはそのままどこかに行ってしまった。
ここまで来て断れるはずもない。僕はため息をついて、三谷さんに言われたとおり、目の前の建物へと入っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます