いつか共に行きたい

 その日は、大きな湖がある地方の旅行記を読んでいた。


 湖には家よりももっとずっと大きな生き物がいるらしいが、誰も姿を見たことがないという。エルダー様は亀に違いないと言う。わたしは、そんな大きな亀はいないから、きっと未知の生き物だと言った。


 エルダー様は大きい亀だっているはずだと図鑑を探して持ってくる。でもその図鑑には、そんな大きい亀の事は書いてない。


「見てください! 大きくても子馬くらい、と書いてあるじゃないですか。家よりも大きい亀なんているはずありません」


 わたしが図鑑を指して言うと、エルダー様は悔しそうに別の図鑑を探しに行く。エルダー様も、わたしも負けず嫌いだから、こうなると長引く。


 やがて『もしこの湖に行ったら、どうやって大きな生き物の正体を突き止めるか』という話になる。


「君の<香力>で、水に潜ることはできる?」

「そうですねえ、⋯⋯潜れますが、湖なので視界が悪いと思うんです。すぐ目の前くらいしか見えない気がします」

「それなら、水を持ち上げてしまうのは?」

「これだけ大きいと、さすがに無理です! 水って、ものすごく重いんです」


 ふたりで考え込む。


「いつか行ってみたいね」


 エルダー様が挿絵を眺めながら言う。


「わたしたち、行ってみたい所がたくさんありますね。わたし、海辺に行って砂を触ってみたいです」

「海だったら、それほど遠くないね。今度、一緒に行こう」


 エルダー様がほほ笑む。紺色の瞳がやさしくゆらめく。草原の香り、草や花の香りが混ざった爽やかな香りを感じる。


 懐かしい香り。会いたい。


 会いたい?今、一緒にいるのに?


 そういえば、海。行ったことがある気がする。いつだろう⋯⋯思い出せない。

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