先生の旅立ち
図書館から戻るとミネオラが「噂の先生とお話してみたい」と待ち構えていた。
そこで、エルダー様から練習場のぞき見事件の顛末を聞いた先生はお腹を抱えて大笑いした。
「エルダー殿が、ピオニィのお転婆に動じないのは、ミネオラさんのおかげだったか!」
わたしもミネオラも、あまりに笑われて居心地が悪くなる。
「センセイの大変さが少し理解できた気がします」
「そうだろう? 王宮に行っても何かしでかすかんじゃないかと思って、気が気じゃなかったよ」
先生は、目じりにたまった涙をぬぐった。ミネオラが不満そうに言い返した。
「私そんなにひどくありません。下の妹たちの方が突飛な行動で兄に心配かけてます」
何でも次の妹さんは、馬が好きすぎて1日中馬を乗り回し、1番下の妹さんは、敷地内に虫小屋を作って、街から集めた虫仲間と虫の研究に勤しんでいるとのこと。それに比べたら少し練習所を覗くくらい大したことじゃないじゃないか、というのがミネオラの言い分だ。
「あの子たちは変り者だけど、お前みたいな危険な行動や人に迷惑をかけることはしないぞ!」
エルダー様が呆れたように言う。
「エルダー殿なら、1人くらい突飛な行動をする家族が増えても動じないね。僕の肩の荷もやっと降ろせるかな」
(先生、その言い方ってまさか)
先生は水色の瞳を、こちらに向けた。
(いやだ、聞きたくない)
「ピオニィ、私はそろそろ行かなくてはならない。置いてきたものが色々あるんだ」
言語学者の先生は色々な国を巡って言語や文化を研究している。今も本当は外国にいる予定だったけど、わたしの再婚のために帰国してくれていたのだ。いつか戻ってしまう事は分かっていたけど先生と別れるのは辛い。
「もう前の時みたいに、あんなに泣かないでよ。エルダー殿も、ミネオラさんも、この家の人たちもいるし、もう大丈夫でしょう?」
(先生、先生、先生)
じわりと涙が出てくる。
すると隣に座っていたミネオラが、わたしをぎゅっと抱きしめてくれた。
「バーノルド様、安心してください。私、騎士になるまで、ここにいることに決めたんです。ピオニィが寂しがる暇もないくらい、私が振り回しちゃいますから」
エルダー様が天を仰ぐ。
「やめて、本当に。冗談に聞こえない」
ミネオラの体温が伝わってくる。そうだ。先生が言う通りわたしにはエルダー様とミネオラとバーシュ家の人たちがいる。
「先生、⋯⋯いってらっしゃい」
ちゃんと笑顔で言えた。先生も、課題が良く出来たことを褒めてくれる時のように、優しい顔でうなずいてくれた。
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