第21話 方針会議という名の その3 ある意味最強の受付嬢
「その時期は、ちょうどある危険なモンスターが活発化し始める時期でした。そのモンスターは、発情期でパートナーを探すために行動範囲を広げ、街の近くまで来る珍しいタイミングでした」
「なんてモンスターなんです? この辺りはそこまで危険なモンスターはほとんど出ないと聞いていましたが」
なんだか、特に理由もなく背中がゾワリとした。
「はい、『マッシカーン』と言います」
「うっ……、頭がッ……!」
ていうか、またお前か!
この街には狂暴なシカモンスターしか居ないのか?!
「どうかされましたか?」
「い、いえ……、続けて下さい……」
そういえば、あの一件はパスタさんにちゃんと話をしていなかった気がする……。
「運悪く。……いえ、私の注意不足ですね。アヤちゃんを迎えに行って、私はマッシカーンと遭遇してしまったんです」
「ああ、それはヤバいですね……」
あいつはヤバい。シカコワイ。
「はい。興奮状態のマッシカーンは、街の周辺のモンスターよりも2ランクほど上です。かなりまずい状況だったんです……」
少し言葉に蒸気を乗せながら、パスタさんの昔話が続く。
「私に気づいたマッシカーンは、前傾姿勢を取り、外敵を排除するべく私に向かって突進してきました……!」
その指は、既に五本目となるお下げをアヤメの金色の髪に作り出していた。
これはどういう髪型になるのだろうか……?
「そこで! 私のピンチに颯爽と現れたアヤちゃんが、全力の凍結大地を撃ってくれたんです!」
頬を紅潮させて友人の話をする様子は、いつものちょっと大人なパスタさんとは違って幼い少女のようだった。
「お陰で私は、間一髪助かりました! あの時のアヤちゃんは本当に格好良くて……!」
まあ、一緒に氷漬けになってしまったので、風邪は引いちゃいましたが。と少しお茶目に舌を出すパスタさん。
もしかして……、実はパスタさんってドMなのか……?
「ただ、その時の凍結大地にはアヤちゃんの全力の『悪役令嬢4』魔力が乗ってしまい、街の半分の井戸が凍ってしまいまして……」
結果として、街の中でも魔女だなんだと、悪い意味で有名になってしまったと。
「なるほど。その負い目もあって、アヤメにはどうにかしてパーティーを組んでほしかったんですね」
「もちろん、友人としてという面もあります。ギルドの受付として、特定の個人に肩入れをするのは良くないのは解っているのですが……」
感情を理性で縛りきってしまったなら、人間は人間じゃなくなるからな。
えこひいき大いに結構じゃないか。オレはそういう方が好きだ。
「わかりました。まあ上手くやりますよ。トンデモ娘の扱いはそれなりに慣れてるんで。……しかし、パスタさんもお人好しですね」
「ふふふ……。アキヒサさんの方がお人好しですよ」
「そうですか? オレはあんまり自分の事を優しいとか思っていませんが」
どちらかというと、効率や利益を取るのを優先するタイプだと思うが。
「だって、あんなに妹さんに愛されてるお兄さんが、冷たい人なわけないじゃないですか」
そう当然のように言われると、少し恥ずかしい。
「……ただの身内びいきですよ」
「それじゃあ、これから一緒に住むんですし。もうアヤちゃんも身内ですね。良かった。精一杯ひいきしてあげて下さいね」
ぐふッッ!(吐血)
なるほど、これは敏腕受付嬢。
数多の冒険者相手に仕事を捌いていただけの事はある。
オレの逃げ道を上手にふさいできたこの手腕はかなりのものだった。
「ま、まあ。アヤメが悪い奴じゃないのはもう解ってます。見知らぬ二人を、住む場所が無いからという理由だけで自分の屋敷に住まわせようとするぐらいですからね」
善人どころか、ちょっと心配になるぐらいだ。
一人で放っておいたら、どこかで悪い人間にでも騙されるんじゃないか?
……ん? つまり?
「……なるほど。これも、もしかして計算通りですか?」
「ふふふ……。どうでしょうか?」
口元に人差し指を当てたパスタさんが、嬉しそうに笑った。
うーん。これが多忙なギルドで、多くの冒険者を相手にしてきた受付嬢……。絶対狙ってたでしょこれ。
これから、ギルドの仕事を請け負う事になるであろうオレとなっちゃんには、住む家を提供してこの街に滞在させる。
それに加えて、単純すぎて危なっかしい性格のアヤメに、そこを上手く管理出来そうなオレをお目付け役としてつける事が出来る。
更に加えて、強力なボディーガードとなる超人5のなっちゃんもついてくるというオマケつきだ。
アヤメとなっちゃんのパーティー相性以外に、ここまで考えていたとは……。
「パスタさんは商人や政治家になっても、上手くやっていけると思います……」
「いえいえ。私なんてそんな。ありがとうございますね」
振り返ってみれば、全てパスタさんの思惑通りか。
この人にはこれからも勝てない気がするな……。
ニコニコ笑顔のパスタさんが、ようやくいじっていたアヤメの髪から手を放した。
気づけばアヤメの髪は、パスタさんの手によってエッフェル塔のようなスカイツリーのような、とんでもない髪型に仕上げられていた。
ずいぶん前に、日本では『映え』るからという理由でキャバクラとかで流行ったらしいが……。
しかし、どうやったら今の短時間でこんな大作が生み出せるんだ……?
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