第15話 結氷令嬢 その5 体はおとな 心は……
「いやあ。オレみたいな素人の魔法だし、魔法のプロであるアヤメにもよく見てもらった方がいいと思ってな!」
「そうですわね。アキ、貴方なかなか見どころあるかもしれませんわ!」
うーん。これだけ単純だと、生きてて楽しいだろうなあ。
「んじゃやってみるか。なっちゃん。よく見てるんだぞ。これからなっちゃんは、オレの事を大いに尊敬し称賛するだろう」
「うん? あに。そんな日は来ないよ。どうしたの頭打った? 黄色い救急車呼ぶ?」
「ふふふ……あにを信じろわが妹よ」
頭おかしくなったわけじゃないやい。
いいから見てろい。
両手をアヤメとパスタさんの方へ突き出し、力ある言葉を紡ぐ。
「
ぶわっっ! っと。
何もない地面から、山の斜面を駆け上る上昇気流のような風が立ち昇った。
アヤメとパスタさんの足が、少しだけ地面から離れ――
「きゃっ!!」
「ひゃぁっっ!!」
盛大に二人のスカートを捲り上げたのだった。
スカートの下から見えるそれは黒と白。ブラックとホワイト。ノワールとブラン。
二人のイメージとはまるで正反対だった。
アヤメよりも、パスタさんが意外だ……。
風が落ち着くまでの三秒程度、二人はその間ずっとスカートを抑え続けていた。
「あに」
なっちゃんがオレの傍までやってきた。
「スカートを捲る為だけに、わざわざ魔法が使えないふりまでする鬼畜の所業……。普通じゃないよさすがわたしの兄だよ一生ついていくよ……」
「あにを信じろと言っただろ……」
ガシッ! お互いに抱きしめあった。
またひとつ、なっちゃんの信頼を得てしまった……。
オレの才能がにくいぜ。
「もーっ! アキヒサさん!」
「アキ……いい度胸ですわね!」
おやなぜだろう、怒りに支配されたような人類の声が聞こえる。
ぼくはただ、新しく覚えた魔法を使ってみたかっただけなのに。
「アヤちゃん。いいよ!」
「
まてまてまて!! それ街にクレーター作るような魔法だろーー!!
■
「すいません。調子に乗りました」
「いいですかアキヒサさん。スカートをめくると女の人は嫌がります。二度とやっちゃダメですよ」
まるで小学生を叱るような口調で、いいお年のオレは、恐らく年下のパスタさんにお説教をされていた。
正直言って、魔法が使えるというのにテンションが上がってしまっていたのは否めない。
いやだって魔法だぜ? 魔法を習得しましたなんて出たら、そりゃどこまで出来るか試してみたくなるじゃん? それが少年心(アラサー)じゃん?
「はい。大変申し訳ございませんでした」
「寛大な余は許しますが。二度とこんなことはしないでくださいます?」
「お前にいわれる筋合いはないぞ。アヤメ。倍返しだ」
出会って即、攻撃魔法をぶっ放してくる相手には許される必要も何もない。
「別に倍返しでも何でもないけど……。あにが珍しくハマってドラマだったね。それ」
「ドラマ……? ですの?」
「いや。なんでもない」
あのドラマの少年漫画的なノリが好きだったのは事実だが。
なっちゃんも余計な事言わなくていいから。ちょっと恥ずかしい。
「ともあれ、お陰でスキルについては理解出来た」
もしかしたら今後のクエストも、なっちゃんの超人頼りになってしまうのかと心配だっただけに、これは良い収穫だった。
先ほどの『風詠み』だけでもあると無いとでは大違いだ。
本当にランクを調べた段階で全て聞いておけば、あの『シカ』ももう少し楽にいっただろう。というか、半殺しされずにすんだかもしれない。
もう一つの『スカウト2』でも何か新しい事が出来るのだろうか、これも後で確認だな。
「それで、もう一つ聞きたいことがあるんだが。これはアヤメ本人の話だ」
「……?」
何のこと? と言わんばかりに首を傾げるアヤメ。
その拍子に、レモン色のロングヘアーが肩から落ちる。
こいつ。口を開かないと美人だなぁ。あたまはポンコツだけど。
「パーティーを組む話についてだ」
「……! そ、そうですわね!! パーティーを組む話ですわ!」
おいお前、まさか、オレ達とパーティーを組むかどうかって話をしていたのを忘れていたのか? 冗談だろ?
「そうですわ! その話をするためにお待ちしていたのです! もちろん覚えていますわ!」
覚えていますっていう人は、大抵の場合忘れている人なんだよなあ……。
■
「それで、アヤメのランクは何なんだ? 超人としか組めないって話だが」
オレがもう一つ聞きたかったのはこれである。
パスタさんがわざわざ、超人と組む以外が難しいという理由。
なっちゃんみたいなソロプレイヤーなのか? でも、この世界で一人で冒険者をやるのはかなり難しいと思うが。
シカにタックルを食らって戦闘不能になったオレは、それを痛いほど痛感していた。
いや、そもそもソロ専ならわざわざパーティーを組みたいというのも変か。
改めて尋ねるオレに対して、アヤメは観念したように、しかしオレから目をそらしながら小さく口を開いた。
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