第14話 結氷令嬢 その4 スキルを学ぼう

「まず一つ。アヤメに聞きたい。さっきのは何だ? あれが魔法なのか?」

 

 オレのランクは風魔法2、スカウト2。

 そう、シカ退治に出る前にパスタさんに教えてもらった。

 先ほどアヤメが扱ったのが魔法なのであれば、オレにも似たようなことが出来るのではないか。


「そうですわね。魔法、あるいはスキルとも言いますわ。……どうして今更そんなことを?」

「どうして何も、初めて見たからだ」

「?? どういう事ですの?」


 良く理解できないという顔で、首を傾げるアヤメ。その拍子に、タンコブを冷やしていたタオルがズレる。

 いっぽうでパスタさんは、『あちゃー、そっかー……。そっちも知らなかったかー……』みたいな様子で右手を額に当てている。

 いや、ちゃんと確認しなかったオレも悪いんだけどさ。


 

 

 

「……よく今まで生きてこられましたわね。どんな所に住んでいらしたんですの」

 驚きを隠す様子も無いアヤメの声が、正真正銘の真実なのだろう。

 やはり、オレ達はまだまだこの世界を知らなすぎる。


 パスタさんとアヤメに聞いたのは、魔法・スキルについてだった。


 ランクが無し~5まで存在することは聞いていたが、では実際に『その才能をどう使うのか』という点。

 シカ退治に出向く前に確認していれば、あんな結果にはならなかったかもしれない。

 スラン大陸に来てから得た情報が多すぎて、そこまで気が回らなかったのも事実なのだが。


 ランクを生かすのは『スキル』、魔法ランクを持つ場合は『魔法』と呼ぶこともあるが、これが才能の使い方に当たる。

 スキルには大きく分けて2タイプが存在し、『常態スキル』と『能動スキル』が存在するらしい。


 常態スキルは、意思に関係なく、常にオンの状態で生かされているスキル。なっちゃんの『超人』などがそれにあたる。

 一方、能動スキルは、行動を持って発生する効果。魔法などがこれにあたるようだ。


 例えば、先ほどアヤメが放った魔法『凍結大地』。これは、氷魔法のランクを持つものが扱う『能動スキル』である。

 スキルは、名と効果を知る事で『覚える』ケースと、自信の知識、経験によって『生み出す』ケースがあるらしい。

 『凍結大地』は、アヤメ独自の要素を持っているため、両方の特性があるそうだが、この辺りはおいおい確認して行けばよいだろう。


 

「つまり、オレも魔法を使えるようになると?」

「ええ、ランク2であれば、基本的なスキルは使用できるはずですわ。スキルについての知識は、誤用を避ける為に幼い間は教わらないものですが。アキの年齢で知らないというのは……」

「申し訳ありません。ランクについてご存じなかったのですから、私がちゃんと説明しないといけませんでした」

「いえ。オレが確認しなかったのが悪いんです」


 パスタさんにはいっつも謝られている気がする。

 たぶん、このスラン大陸に住む人たちからすれば、スキルを知らないという発想も出てこないのだろう。

 それぐらい、常識自体に乖離があるのだ。

 

「風魔法であれば実際に見た方が早いのでは? パスタ」


 何故かパスタさんに声を掛けるアヤメ。

 

「そうね。アキヒサさん私の前に立ってもらえますか?」


 言いながら、自分も立ち上がり広い場所へ移動するパスタさん。

 促され、立ち上がるオレ。

 机の上で溶けていたなっちゃんが、視線を動かす拍子に椅子から転げ落ちそうになる。

 なっちゃんが転ぶと地面が割れるんだから、気をつけなさいよ。頼むから。


「私、風魔法1なんです。あまり戦闘には向きませんが、基本的な事であればお教え出来ます」

 

 言いながら、パスタさんが両手の指を合わせる。


「『風詠みリードエアロ』」


 『名』と共に、緩やかな強すぎない風が、パスタさんを中心に巻き起こる。

 『おおー……』と、なっちゃんが拍手をしていた。

 これが風魔法か。


「ん……?」

 

 頭に、突然情報が入り込んできた。

 

 

 『風詠みリードエアロ』を習得

  気流を操作する能力。

  風魔法の基本であり、ランクに応じて規模・速度・精度が上下する。


 

「なんだ、頭に直接……」

「良かった。大丈夫そうですね」


 パスタさんが安心した様子で声を掛けてくれた。


「ランクさえ足りていれば、基本的なスキルは認識することで身に着ける事が出来ます。アヤちゃんの言ったように、見てもらった方が早かったですね」


 直接情報が流れ込んでくるのは、少し不気味な感じもしたが、この世界ではこれが当たり前なのだろう。

 

「え、あにもこれ出来るの?」

「うーん。どうだろう。出来るとは思えんが……」


 なんて思わせぶりな事を言うが、まあ、実際の所は問題なくできるだろう。さっき『習得』って出たしな。


「これ、どういう使い方があるんですか?」

「そうですね。ランクにもよりますが、軽いものであれば運ぶことも出来ますし、小石や刃物などを巻き込むことで攻撃にも転用出来ますね。高ランクの方は、飛行魔法として利用する方もいます」

 

 長時間の飛行が可能な方は、それこそランク4以上でないと難しいと思いますけど、と付け加えるパスタさん。

 炎や氷の弾をぶつけるような、何もない状態から相手を打ち倒すような事こそ期待出来ないが、なるほど、これはこれで汎用性は高そうである。


「ふむ……。アヤメ、パスタさんの隣に立ってもらえるか?」

「どうして余がアキの言う事を聞かなければなりませんの?」

「そういえば、アキってオレの事か?」

「アキヒサ なのでしょう? 変わった名ですけど。それならアキでよくってよ」


 初めて会った相手に名前を略されて呼ばれるのも、なんだかムズかゆいが……。まあ別に不愉快な感じはしなかった。

 そう呼ばせてあげてもよくってよ。



「うっ! さっき凍らされた膝に、矢を受けたような痛みが……」

「……ま、まあ。魔法も知らない素人ですし。余が協力して差し上げますわ!」

 

 扇をもって立ち上がり、パスタさんの隣に仁王立ちするアヤメ。


 ちょろすぎないか? 大丈夫か?



 


 

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