第13話 結氷令嬢 その3 取引

 パスタさんとアヤちゃんさんが並んで向こう側に座り、向かいにはオレが、そしてオレの横には机に顔を擦り付けるようにしてなっちゃんが座っていた。

 ちなみに、既にギルドを覆っていた氷は大部分が霧散している。

 恐らくだが、先ほどのパスタさんによるフライパンの一撃により、アヤちゃんさんが貯めていた魔力のような何かが消えた為だろう。

 


「くへへ……。挟まれたい。こんなのセクシャルがリミットブレイクで限界突破だよ……」


 意味おなじやん。


 なっちゃんが隠す様子も無く見続ける、向こう側の二人が座る机の上には、スイカかメロンとしか形容できないようなものが四つ乗っかっていた。

 二人ともあんなのが二つもくっついていると、結構重そうだなあとか思ってしまうが。デリカシーを疑われるので口が裂けてもそんなことは言えない。

 ……一応補足しておくが、食べ物の話ではない。が、直接的な表現は避けたいのがギリギリの理性の証である。

 

「自らを制御する術が見つからないよ……。あ、やば、ヨダレ……」

 

 ぼそぼそ喋る声からは何かのリビドーを感じながら、オレは聞こえないふりをする。

(意識するとそこに目が行きかねないからな!)


 

「ええと、アヤちゃんさん? そもそも待っていたってのは、どういう意味だ?」


 片方には、にこやかだが少し困ったように眉を曲げているパスタさん。

 もう片方には、最初の尊大な態度を取り戻したように、扇を広げるアヤちゃんさん。

 ちなみに、もう片方の空いた手で、タオルに包まった氷をタンコブに当てている。

 ぶっちゃけ威厳も何もなかった。


「ア ヤ メ ですわ。アヤメ・グラジオラス・ヨトゥンリング。気軽にアヤメ様とお呼びになってよくってよ」


 気軽に呼ぶ呼び方じゃねーだろそれ!


「……これは失礼。オレは日向アキヒサ。こっちは妹の日向なつみ。あんたが待ってたっていう超人5だな」


 横を指さしながら、簡単に自己紹介をする。

 

「それでアヤメ。繰り返すが待ってたってのはどういう意味だ?」

「なんだか雑に扱われているような話し方なのが気になりますが……」


 そりゃお前、いきなり魔法ぶつけられて氷漬けにしてきた相手に、なんで丁寧に話さにゃならんのか。

 それはそっちにも責任があるぞ。

 

「余は、パーティーを探していますの」

「お嬢様なんだろうし、お城とかで開催しているのに参加すればいいんじゃないか?」

「そのパーティーではなくってよ!?」


 知ってた。


「超人5とパーティーを組みたいと? なんだ、勇者パーティーでも作って有名人にでもなりたいのか?」

「そ、それは……。別に勇者がどうとかではなくて……」


 何故か言い淀むアヤメ。

 なんだ、他に理由でもあるのだろうか?

 

「アキヒサさん。少しいいですか?」


 横に座っていたパスタさんが助け舟を出してきた。


「ごめんなさい。アヤちゃんが魔法で腕試しをする事は判っていました。でも私も止めませんでした。本当に申し訳ありません」

「そ、それについては申し訳ありませんわ」


 頭を下げるパスタさんと、パスタさんの肘につつかれて一緒に頭を下げるアヤメ。


「私とアヤちゃんは昔からの友人で、アヤちゃんの事は幼いころから知っているのですが」


 氷漬けのギルドの中で、アヤメと一緒に毛布にくるまったミノムシになりながらも、パスタさんが残っていた理由。

 暴走したアヤメを遠慮なくフライパンでぶっ叩ける理由。

 なんとなくは察していたが、二人はギルドの受付と冒険者という関係になる以前からの知人だったのだ。

 

「アヤちゃんの魔法の特性上、超人以外と組むのがすごく難しいんです。アキヒサさん、少しでいいです。考えてもらえませんか?」


 パスタさんは、オレ達がド初心者の冒険者であることを知っているはず。

 にも関わらず、こう言ってくるという事は、何かしらの理由があるのだろう。


「んー……。いくつか確認させてほしいです。丁度パスタさんに聞きたかった事でもあるので」


 取引――。


 というわけではないが、魔法使いもいるし、良い機会なのでここらで疑問を払しょくさせてもらおう。

 もしかしたら――いや、オレの考えが正しければ、今後に役立つ知識が得られるかもしれないし。

 


 

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