第11話 結氷令嬢 その1 凍てついたギルド

 周囲の人がくしゃみをしながらギルドから遠ざかっていく。


 そんな人々の流れに逆らって、オレ達はギルドを目指していた。

 

『おいおい。ヨトゥンリングの魔女が来てるのか?』

 

『例のお嬢サマが居るんだってよ。巻き込まれたら堪ったもんじゃねー。今日は休みだ。休み!』

 

『ママー。こおりのおしろ!』

 

『しっ、見るんじゃありません! 魔女に見つかりますよ!』

 

 なにやら物騒な単語がすれ違う人々から聞こえてくる。

 最後のは。なんていうか、アレだな……。

 

 

「ぃッ……くしゅん!」

 

 しかし、さみぃ。

 

「なっちゃんは寒くないのか?」

 

 特に気にする様子もなく、オレの少し後ろを歩くなっちゃんに声をかける。

 

「全然へいき。見てる分にはさむそうだけど」

 

 さす超人5。マグマもおよげりゃ凍える冷気もダイジョーブってな具合か。

 

 

「どうなってんだこれ……」

「んー。完全に凍ってるね。これ、魔法かな? それともモンスターが襲ってきてたり?」

 

 ギルドの前まで来ると、三階建ての建物を中心に地面が完全に凍っていた。

 霜の柱を天まで伸ばした様は、結氷した湖の上に鎮座する氷の城のようにも見える。

 

「開くかな?」

 

 なっちゃんが氷も寒さも物ともせずに、入り口のドアまで近づいていく。

 バギンッ!

 

「……ありゃ」

「こーわした、こーわした! パースタさんに言ってやろ!」 

「あに。器物破損は良くない。反省して」

「壊したのはなっちゃんだからね!?」

 

 脳みそいかれてんのかこの妹は! 


 

 壊れたドアを外に放り投げて、

 

「よっこらセ〇〇〇」

 

 なっちゃんは誰に充てるでもないセクハラまがいな事を言いながら、上半分が取れた扉を跨いで、ギルドの中へ入る。

 

「女の子なんだからそういう事言うんじゃありません!」

 

 エッチなのはいけないと思います!


 

 

 果たして、ギルドの中には

 

「お待ちしていましたわ」

 

 凍った机の上にティースタンドを置き、椅子に座り優雅に紅茶を啜るお嬢様と。

 

「本当に、お待ちしてました……」

 

 その正面で、毛布にくるまったミノムシのような格好で震えるパスタさんが待っていた。


 

 ……今日だけで二度も事件に巻き込まれているパスタさんが、なんだかすごく不憫に思えてきた。


 美人で笑顔が素敵な人でも、誰もが幸せになれるわけではないんだなあ……。

 

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