第3話 限界オタク少女とあに その3 五人目の超人

『ちょ、超人? ランク5!?』 

『ランク5って、世界に数人……! しかも超人!?』 

『おいおい、もしかして未来の勇者サマが……?』 

『でっかく、なりたい! でっかいサイコー! その通りだな!』 

『ど、どどどどなた、どなたがですの!?』


 

 え、なにこれ?

 パスタさんの言葉で、ギルド内が一瞬にして色めきだつ。


 今までざわざわと騒がしかったギルド内に、驚きの声や様々な憶測が飛び交い始めた。

 なんだ、ランク5ってすごいのか?


「あ、あに。どどど、どうしたのこれ……」

 

 急に騒がしくなるギルドの様子に、なっちゃんも訳が解らないといった様子で周囲に目をやり慌て始める。

 

「ちょ、ちょちょちょ。ちょっと中に! すいません。パスタさんもいいですか!」

 

 なっちゃんの手を引き、パスタさんに声を掛けながら、先ほどのカウンターの奥へと入っていく。

 そこはギルド職員の事務室のような場所。いくつもの本棚に、溢れんばかりの書類がそこかしこに積まれていた。

 

「あの、超人5って。なっちゃん。――ええと、なつみがですか?」 

「はい。間違いではありません。世界で五人目の『超人5』です」

 

 言いながら、しかしパスタさんも恐る恐るという感じだ。どうやらこれは本当にすごい事なのかもしれない。

 ランクってゲームで言うレベルのような物じゃないのか? レベル99とか、100とかならまだ解るんだが。

 

「世界で五人目っていうのは……」 

「ご存知かと思いますが、超人ランク5のうち、二人は『勇者』。一人は『魔王』です。最後の一人は『メイド』ですね」

 

 最後のせいで一気によく判らなくなった!

 だが、世界になっちゃんを除いて四人しか居らず、しかもそのメンツは勇者二人と魔王一人(メイドは一回忘れよう)だって?

 

「すいません。ご存知じゃないのでついでに教えてください……。超人とランク5について」 

「本当にご存じないのですね……。わかりました」

 

 何かあると察してくれたのだろう、パスタさんはそれ以上突っ込むようなことはせずに教えてくれた。


 ランクは、『無し~5』までが存在し、その一つ一つ(例えば、2から3の間)には、とてつもなく大きな差があるとの事。

 ランク1は、向き不向き。適正ありというぐらいだが、頼りにするにはいささか心もとないランク。

 ランク2があれば、才能としては一般的なランク。このランク帯に属する人は多く、1に近い、3に近いの差で同じ2でも素質は大きく変わってくるそうだ。

 ランク3は、もう達人や天才の領域。才能だけで暮らしていけるランク。

 ランク4は超一線級であり、居ても国に一人や二人というレベル。王宮お抱えの騎士だったり、筆頭魔法使いだったりするそうだ。

 そしてランク5は――世界に数名という希少性らしい。

 確かに、『一生を費やして、やっとランクを一つ上げる事が出来るかもしれない』 という説明を聞いた所なのだから、それぐらい予想出来ても良いものだが。オレも頭が回っていなかった。

 仮にランクが100分割されていて、それでも一つ上げるのがやっとというのならあまりにも差が細かくなりすぎるしな。


 また、超人というのもそれ自体がレアなランクらしいのだが、それが

 

「簡単に言うとですね。ナツミさんは、『肉体の強度が非常に高い』という事です」 

「は、ははは、はい!」

 

 ビシっと、直立で右手を上げて敬礼するなっちゃん。

 うーん、あんだけ下世話な話をしていたクセに、本人の前では対人苦手属性が思いっきり出ちゃってるぞ。

 

「強度? ですか?」 

「そうですね。例えば……。これならいいかしら。一度溶かして打ち直す予定という話だし」

 

 パスタさんが目を止めたのは、机のわきに置かれていた両刃の鋼の剣。いわゆるロングソードと呼ばれる代物だろう。

 冒険者が忘れて行ったのか、あるいは貸し出し用に常備されている物なのだろうか。

 

「アキヒサさん。これ、曲げられますか?」

 

 厚みはオレの親指ぐらい、長さは1メートル弱と言ったところか。ゲームやマンガなどで騎士が盾とセットで持つような長剣である。

 いやいや。冗談言わないでください。スプーン曲げなんて比較にならないですよこれ。

 受け取っただけでもそれなりの重みがある。2~3キロはあるだろう。

 

「ん、んんんんんん!! んしゃー! んなろぉーー!」

 

 両手で思いっきり力を入れるが、鋼はびくともしない。

 

「はぁ、はぁ……。いやムリですよこんなの……」

 

 だが、パスタさんがわざわざオレをデモンストレーションに使ったぐらいなのだから。

 ……つまり、そういう事なのか?

 

「なっちゃん。やってみそ」

 

 隣のなっちゃんに剣の柄を向ける。

 

「こんな可憐でか弱く見目麗しい深窓の令嬢のような可憐な妹がそんな事できるわけないでしょばかなあにだなぁ」

 

 この娘。オレ相手だとさっきのテンパりっぷりがどこに行ったのかというぐらいに饒舌である……。

 でも同じ形容詞使いまわしてる所に余裕の無さを感じるな。

 

 文句を言いながらもなっちゃんが剣を受け取った。

 そう、極めて自然に。2キロの鋼の剣をだ。

 

「あにに握らされたこれ……。すごく……固いです……」

 

 当たり前だろ、鋼の剣だからな。

 ……鋼の剣だからな!

 

「しかし、こんなん渡されても曲げられるわけな……って、うぇぇっ!?」

 

 剣を両手で持ったなっちゃんが何やら大きな奇声を発したかと思うと、まるで飴細工のように、いとも簡単にその刃を曲げ、そのまま丸めてしまった。

 

「うーん。話の流れ的には読めてたけど、どうなってんだこれ。どうやったの?」

 

「わたしがわかるかよぉ~! なんなのこれぇ~~!?」

 

 丸く曲がった剣を指先で持ちながら、何故か半泣きななっちゃん。

 自分がやったという事実が呑み込めないのかもしれない。

 

「お解り頂けましたか? 高ランクの超人は、法則を超越したような肉体を持っているそうです。超パワー、超スピード、そして何ものからも傷をつけられない無敵の体。ランク5ともなれば、その体は完全身体とも呼ばれています」

 

 こちらは私の方で始末しておきますね。と言いながら、半泣きのなっちゃんから剣だったものを受け取るパスタさん。

 

「完全身体を持つ一人。南の火山地帯に住む超人の魔王ヴィフィターは、一説によると自らの体一つで火山を引き裂き城を作り上げ、溶岩の風呂に入ると言われています。そして、他の三人も魔王に引けを取らない身体を持つそうです」

 

 魔王なのに自分でお城作っちゃうのか……。

 

「ね、あに。想像するとちょっと可愛くない? お風呂の中で気持ちよさげに歌ってたりして」

 

 少しわかる。

 

「あはは……。そんな身体を持つので、超人は『勇者』への適性が高いとも言われていますね。どんな攻撃も効かず。どんな相手も打ち倒す。それ故に敗北する事がないからだそうです」

 

 オレ達のあほなやり取りにも律義に反応しながら、それでも説明を続けるパスタさん。

 いい人だなぁ。


「まあでも、それだけ聞くと本当に超人だな。お決まりのアメリカンなヒーローだって、そこまで出来るか怪しいぐらいだ」 

「もしかして、わたしの体もそんな感じに……?」

 

 いきなり超人とか魔王だとか勇者だとか言われて、流石のなっちゃんも堪えているのだろうか。

 ……我が妹ながら少し可哀想だ。

 兄であるオレが、妹のメンタルケアもしっかり行い、プレッシャーに押しつぶされないようにしてあげねば。

 

 

「おいおい、そんなら勇者にでもなんでもなって、綺麗なチャンネーあつめてハーレムでも作っちまうかぁ!? なぁ、あによぉ!」


 

 ……ほんと! お前さぁ!

 


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