第2話 限界オタク少女とあに その2 スラン大陸

「あの……。お、お待たせいたしました……」

 

 そうこうしている間に、書類を持ったお姉さんが、先ほどなっちゃんが出てきたカウンターの奥から出てきていた。

 明るい笑顔が眩しかったお姉さんだが、気のせいか少し遠慮しているような、戸惑っているような……?

 

「いえ。全然待っていませんよ。ええと……」 

「あ、申し訳ありません。お名前お伝えしておりませんでしたね。私、パスタ・フォークと申します。以後よろしくお願いしますね」

 

 ペコリと頭を下げるパスタさん。なんだか美味しそうな名前だなと思った。


 ……断わっておくが、別に今の感想に先ほどのボボボボンとの関連性はない。

 くへへへへ。と変な笑い方をしながら、冒険者達が食事をしている様子を眺めているなっちゃんは放っておいて。

 

「それで。ええと、訳あってオレ達は初めてこの街に来たんですが」 

「はい。ギルドの事もご存じなかったですね。……ええ、今回の結果を見たらそれも納得です。宜しければ、改めてご説明させて頂いても?」

 

 いかんせんオレ達はまだこの世界の事を殆どわかっていない。ぜひお願いしたい。


「では……」

 

 こほんと、改まったように背筋を伸ばし、パスタさんは説明を始めた。


 

 

 

「ご存知の事も多かったかと思いますが、以上が現在のこの街の状況になります」 

「……なるほど」

 

 三人の魔王が納める魔国と、四つの人間の国家が存在する。スラン大陸。

 止まない吹雪に閉ざされた氷の上を、正体不明の巨大生物が闊歩する凍てついた大地もあれば、溶岩が流れ空気を焦がす断崖絶壁に、巣を守る飛龍が飛び交う地獄のような火山も存在するファンタジー世界。

 

 なるほど、少なくともオレ達の住んでいた日本よりはよっぽど人間が住みにくい世界のようだ。

 

 だが、人間も人間で、オレ達の世界とは少々事情が違っているらしい。

 この世界には、魔法や技術、身体能力を表現するものとして『ランク』というものが存在するそうだ。

 

 例えば『炎魔法1』『剣技2』など。読んで字のごとく、炎を操作する魔法や剣術を駆使して戦う能力に類する才能のような物のようだ。

 鍛えればこのランクを自ら上げる事も可能だが、それは並大抵のものではなく、『一生を費やして、やっとランクを一つ上げる事が出来るかもしれない』ぐらいのものらしい。

 

 元の世界でも当然才能の差というものはあったが、考え方や努力次第である程度はカバーできていた。

 こちらの世界もそういう意味では似てはいるが、それが数字として自分にも他人にも認識できてしまう上に上限があるようなものだと考えると、中々シビアな世界であるといえる。

 

「ランクの事は知ってはいましたが、田舎でほとんど二人暮らしていたような状態で、調べる手段が無かったもので……。丁度良かったです」

 

 あまりに何も知らないという事がバレて、変に警戒されるのもよろしくはない。少しは話を合わせておこう。

 ……この世界には不似合いなスーツ姿の男に、ジャージに奇妙な文字の入った長袖シャツの女といった二人組な時点で、既に周りからは浮きまくっているのだが。


「はい。そうですよね。このランクは、ええ、それにしても……」

 

 ぶつぶつと独り言を言いながら、持ってきた書類に目をやるパスタさん。

 

「い、いえ。ええと。この街を訪れた方は、冒険者だけに限らず、商人も移住者でも、まずは当ギルドへランクの確認と申請を頂くことになっておりまして」

 

 パスタさんが言うように、この街の入り口からほど近くに転生してきてしまったオレ達は、街の人に話を聞き、とりあえずこのギルドを教えてもらったのだ。

 

「ギルドが才能をある程度把握しておく必要がある?」 

「はい。おっしゃる通りです。街に凶悪な魔物が現れた場合や、災害が訪れた場合などに、特定のランクを持つ方に依頼を出す事がある為です」

 

 つまり。冒険者ギルドは冒険者を統括する以外にも、街の防衛や厄介ごとの解決も承っているという事か。

 冒険者ギルドという看板を掲げているが、何でも屋への斡旋を公務員がしているようなイメージが近いのかもしれない。


「それでその、ランクなのですが……」

 

 少し言いよどむような様子のパスタさん。

 お、なんだこれは。もしかしてオレのランクがすごく高いのか? もしかして勇者100とか、魔法剣士1000とか!?

 いやー、困っちゃいますね。異世界転生にて日向アキヒサくんの最強伝説始まっちゃいますか。


「ヒュウガ・ナツミさま」

 

 ……ん? なっちゃん?


「調査結果を何度も確認致しましたが、間違いなく。ちょ、超人5です!」

 

 あ、大丈夫です。それはさっきなっちゃんからも聞きました。


「ふ、ふぁい!? あ。あああ、あの! あのあの! お、お姉さん。おおお、おっぱいすごいですね! スーパーすごいです!」

 

 そしてなっちゃんは今更パスタさんの存在に気付いたようだった。

 

「わたわたわた、わたしも、そそそ、そう、そんなスーパー超人のような体になりたいです! なりたい! でっかく!」


 ナチュラルセクハラやめなさい。

 ちゃんと牛乳飲みなさい。

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