妹が世界屈指の勇者候補の超人だけどオレ意外とまともに会話出来ない限界ちゃんなので、どうにか勇者になるまでプロデュースしていきたいと思います

すっぱすぎない黒酢サワー

第1話 限界オタク少女とあに その1 バスガス爆発

「あに。なんかわたし、ランクが超人5なんだって」


「なんだそれ、強いのか? 空を飛んだり、殴って岩でも壊せたりするのか?」


「しらない。試したことないし」

 

 そりゃそうだ。オレだって試したことねーよ。


 ここはどこかの町の冒険者ギルドと思わしき場所の受付カウンター。



 ランク? とやらを調べるという事で、ギルドの奥に入っていた愛すべきオレの妹 日向ひゅうが なつみ は、ボブカットよりは少し長めに切った、細やかな少し色素の抜けた髪を柔らかく振りながら、奥から出てきて開口一番そう言った。



「そんなことよりあに。受付のお姉さんのオッパイやばくなかった? わたしのそのランク? 調べるときにさ、お姉さん屈んだんだけど。そこで谷間見えたの。いやまーじでヤバイよ。こんなん。ボボン! よ。ボボボボボン! カイデーだよ。カイデー!」

 


 なつみことなっちゃんは両手でスイカぐらいの丸を二つ描く。


 ちなみに、いい年こいて妹の事なっちゃんて呼ぶのかよと言われそうだが、こう呼ばないと聞こえないふりをするのだ、この妹は。

 


「うっ……。思い出したら鼻血が……」


 

 鼻を両手で抑えるなっちゃん。

 バカだなあ。この子。


  

「しかし、そんなにボボボボボンだったのか……」


 

 数分前、初めてここへ来たオレとなっちゃんを、明るい笑顔で出迎えてくれた金髪のお姉さん。


 ゲームやマンガなどで見る、ザ・ギルドのお姉さんという感じの、ビールを両手に持ってきてくれそうな美人さんは、確かにスタイルも抜群だった。そうか、あの薄着のお姉さんが屈んでそれで……。


 

「うっ……。鼻血よりもそれ以上に……」


 

 想像してしまうと余計なところが反応しそうだ。


 

「バカだなあ。このあに」


 

 振るだけ振って突き落とすとか、そういうのズルくない?


 

 さて、『なぜ、日本に住んでいたはずのオレ達兄妹が、こんな場所を訪れたのか?』というとだ。



 何のことは無い。他に選択肢もなく、道行く人に声を掛けた際(日本語が通じて本当に良かった)に、街の事を知りたいのならと案内されたのがこのギルドだったのである。


 ――オレ達は、ほんの少し前にこの世界にやってきたのだ。


「いやー、バスガス爆発ガスガス爆発ってね。やっぱり慣れない料理とかするもんじゃないよね。こーゆー事もありますかー」



 ねえ。なんでそんなにのんきなの? バカなの?


 理由は全く判らないが、家に帰ってきてリビングに入ったオレは、のどの渇きを潤す為に麦茶を取ろうと冷蔵庫を開けた直後、大きな爆発音と衝撃を受けた。


 そして恐らく、リビングに置いてあるゲーミングPCの電源を入れようとしていたなっちゃん共々、あの衝撃でこの世界にやってきてしまったようなのだ。


 ……たぶん直接の原因はオレじゃなくてPCに電源を入れた際の火花か何かだろうなあ。



 幸いにというかなんというか、オレ達の両親はオレが社会人になって少しした頃には他界しており、家にはオレとなっちゃんしかいなかった。


 両親が残してくれた田舎の一軒家だったので、恐らく周囲の民家にも被害は出ていないと思うのだが。こればかりは今のオレには確認のしようが無い。


 ……被害が出ていたら本当にごめんなさい。巻き込まれた人が居ませんように。


 

「異世界転生って本当にあるんだね。ね、あに?」


 

 鼻血も落ち着いたのか、カウンターの横に座ったなっちゃんが、首をかしげながら俺を覗いてくる。

 


「転生なのか? どっちかっていうと異世界に転移してきちまった気もするけど。オレもなっちゃんも、向こうに居た時のままじゃないか?」


 

 なっちゃんは適当な長袖シャツ(真ん中に『女未』と大きくプリントされている)に、下はいつものジャージ姿。そしてかろうじて履いていた猫の顔がくっついた厚めのスリッパ。

 これはラッキーだった。靴のようなものがあるだけでも全然違うからな。


 オレはオレで、最近やっとする必要がなくなったネクタイがないだけの(クールビズありがとう)、ワイシャツにスラックスなサラリーマンスタイルである。もちろんリビングに居たので靴下は履いていても靴は無い。


 ここに来るまでとても痛かった。素足じゃないだけマシだったと思おう。


 

「あの爆発を受けて、でも特に傷とかも残って無かったし。そう考えると転生なのか?」


「どちでもいー。あにが居るし。別に不便とかなさそ」


 

 お前はオレを便利な道具としか見ていないだろ?


 

「くへへ。あのお姉さんのかっこエッロ。ビキニアーマー的な感じじゃんド○クエ3で見た時はトキメいたけど本当に居るんだいいよね異世界わたし生まれてきてよかったかも」


 

 そんなオレの考えなどどこ吹く風で、冒険者たちが食事や打ち合わせをしている方向を向きながら、涎を垂らす駄妹。


 最後早口やばい。



 もしかしたら死んだのかもって話してたのに、そういうセリフすぐ出てくるの凄いねキミ。あと出てくるゲームの名前がオレよりも古いのもすごいねキミ。オレは9からしか知らんですよ。


 

「でも、PCもスマホもアニメも同人誌もないんだよね……。ね、あに? どうにか出来ない?」



 うん。妹よ。出来るわけないでしょ?


 

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