妹が世界屈指の勇者候補の超人だけどオレ意外とまともに会話出来ない限界ちゃんなので、どうにか勇者になるまでプロデュースしていきたいと思います
第4話 限界オタク少女とあに その4 昼からお酒はほどほどに
第4話 限界オタク少女とあに その4 昼からお酒はほどほどに
「なあパスタちゃんよぉ~。さっき勇者がどうとか超人がどうとかいう話を聞いたんだがぁ?」
ある程度の状況を理解したオレ達が、ギルドの事務室から出てカウンター席へ戻ると、それを待っていたかのように身長2メートル近くある大男が寄ってきた。
何かを消毒しそうなモヒカン頭の、ラグビー選手のようながっしりした体格の男は、左手に大きなジョッキを持っている。さてはコイツ。かなり酔ってるな。
他の客――冒険者たちだろうか? も、先ほどの盛り上がりから落ち着きはしているものの、声こそ出していないが大男の言う事が気になるらしく、遠巻きに様子を見ている。
「グルッヘさん……。それは、ええと……」
グルッヘという男に声を掛けられ、パスタさんが困ったようにオレとなっちゃんに目を向ける。
先ほどはオレ達に伝える際に、超人ランク5の事を大きめな声で言ってしまったが、オレ達が予想以上の世間知らずである事を知った今となっては、失敗してしまったと感じているのだろう。
パスタさん。あなたは全然悪くない。
悪いのは、その後大声でセクハラして無駄に目立ってしまったウチの駄妹です。
「ランク判定が超人5だって話をしていた。それが、何かおかしいか?」
パスタさんとグルッヘの間に割り込むオレ。
正直おっかないが、悪いのは何も知らなかったオレ達だ。パスタさんに迷惑は掛けられない。
それにこのグルッヘだって、いくらなんでもギルドの中で揉め事を起こそうなんて流石に考えてないだろう。
「はぁん……? お前が超人サマかぁ? いい度胸してんなぁ?」
値踏みするようにオレの顔を覗き込んでくるグルッヘ。
……考えてないよな?
「あ、ああああに! わた、わたわたわた!」
「なっちゃんは黙ってなさい」
オレのワイシャツの裾を引っ張りながら、言葉にならない声をあげるなっちゃん。
ただでさえ知らない人が苦手なのに。こんないかついオッサンが出てきたら、そりゃ一層テンパりもするよな。
「そっくりそのまま返すぜオッサン。……パスタさん、さっきのアレ。まだ事務室にありますよね?」
「あ、はい。ええと……?」
「持ってきてもらっても?」
ぱたぱたと小走りにカウンターへ入って行ったパスタさんは、すぐに例のアレを抱えて戻ってきた。
オレはそれを受け取り、グルッヘの前に投げ落とす。
「? んだこりゃぁ……?」
拾い上げるグルッヘ。それが何かを理解すると
「ロ、ロングソードかよこれ……。は、ははは。鉄をこんな形に……」
声が震えている。
「そうなりたくなきゃ、今日は帰りなオッサン。オレも無駄に争いたくはない」
うーん。オレ。カッコよすぎか。
「あ、ああ……。そうだな。まあ、オレも少し興味があっただけだしな……」
言いながら、背を向けるグルッヘ。気のせいか、額には冷や汗すら見える。
あ、あぶねー。こんな大男とケンカになんてなったら、擦り傷とかじゃ済まんぞ。
「ちっ……。 酒飲みなおすかぁ……。! っとっととと……!」
だから、オレは完全に油断していた。
グルッヘが素直に引き下がった事に安堵してしまっていた。
この場をどうにか切り抜けたと。我ながらうまく機転を利かせたと。
後ろを向いた大男が、まさか足をもつれさせてこちらに倒れて混んでくるなんて、思ってもみなかったのだ。
「ぃってててて……」
オレは、後ろを向いたままの大男に押しつぶされてしまった。
「わりーわりー。って、おれぁ誰にぶつかって……。あんだぁ? あんちゃん超人なんじゃねぇのかぁ?」
立ち上がったグルッヘがオレを乱暴に引き起こす。
「大した事ねぇーじゃねーか。あああん?」
バシバシとオレの背中を遠慮なくたたき続けるグルッヘ。こいつ、酔っぱらっているうえに、状況が良く分かっておらず全く力の制御が出来ていない。
「ぐっ……! バッカヤロー……。飲み過ぎてんじゃねぇ……」
「ああん? そういやお前、オレの事オッサンっつってたなぁ? オレは28だぜぇ?」
おいおい、オレと二つしか違わないのかよ。どう見てもいい年のオッサンじゃねーか。
「……ああ、そりゃあ悪かったな、老け顔のニイさん」
「ああ……? うるせえよ、ニセ超人サマがよっ!」
「ぐっ……」
ゴッ! っと、腹に衝撃。向こうの世界でもこんな力で殴られたことはないなあ……。
そりゃそうだ。そもそもロクにケンカだってしてこなかったからな。
「アキヒサさん!!」
パスタさんの叫び声が聞こえる。
「あ、あに……」
赤く腫れた顔の、涙目のなっちゃんが見えた。
そんな顔しない。別にあにはちょっと頭がくらくらするだけだから。
「とと……。変に挑発しやがるからつい手が出ちまったじゃねぇか。これに懲りたら二度とランク5の超人だなんだとか、デカイ嘘つくんじゃねぇぞ?」
頭を掴まれてそんな事を言われた。いや、それは別に嘘でもなんでもないんだけどな……。
「あほーーーーーっっっっ!!」
突如。
建物の中を、まるで台風が如く凄まじい衝撃が通り抜けた。
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