第2話 これでもプロのモデルなのです

「おはようございます、今日はよろしくお願いします」


「おはよう陽向葵ひなたちゃん、いつも元気だね」


「あはは、元気だけが取り柄ですから」


 私の名前は白桜陽向葵はくおうひなた14歳の中学生にしてSAKURA芸能事務所所属のモデル兼役者をしている。来年には高校受験があるので役者業は少し控えめにしてもらっているけど、そこそこ子役としては知られていると思う。


 私はスタッフさん一人一人に挨拶をして回る、今日はティーンズ用ファッション雑誌の撮影に来ている。私は小学校に入る前からお母さんの事務所に登録をしてお仕事をしている、幼い頃からお兄ちゃんの撮影などにいつも付いて行っていたのが切っ掛けなのだけど、その辺りのことはあまり覚えていないんだよね、なにせ3歳とか4歳とかだったから。


 お兄ちゃんから聞いた事なのだけど、いつもお行儀よく座っていてとしの割には騒いだりもせずスタッフさんの言うこともちゃんと聞いたりといい子だったみたい。いつからかお母さんの事務所所属となって、写真の撮影やドラマの子役としてもちゃんと指示に応えてしっかりしていたらしい。


 自分で言うのも何だけど愛想はいいし、容姿も悪くないと思う、小学校5年辺りから急激に身長が伸びたせいで早々に小学生向けの雑誌からは卒業することになったけど、同系列の中高生向けの雑誌で今でも使ってもらえている。


 そして今日の撮影は……。


「陽向葵おまたせ、少し遅れたかな」


「ん、大丈夫だよ私も今来たところだから、これからお化粧してもらって着替える所だから逆にお兄ちゃんをまたせちゃうかも」


「時間なら大丈夫だよ、今日のお仕事はこれだけだから」


 お兄ちゃんは私の頭をぽんぽんと優しく撫でてくる。

 お兄ちゃんの白桜月夜はくおうつくよは二十歳の大学生でSAKURA芸能事務所所属の俳優とモデルをしている、そして私の大好きな人でもある。


「あまり子ども扱いしないでほしいな、これでも私もう14歳なんだからね」


「嫌だった?」


「嫌……じゃないけど、人前じゃ嫌かも」


 少し拗ねたように言ってみる。


「そう? なら人が見てないところでならいいよね」


 そう言って私の頭を撫でてから「挨拶してくるね」と言って歩いていった。

 その後スタイリストさんに呼ばれヘアメイクさんに軽く化粧と髪のセットをしてもらい撮影用の衣装に着替える。今は梅雨が開けた所なので衣装は少し早いけど秋物が用意されている。


 まずは何着か一人で撮影をする事になり休憩を挟んでお兄ちゃんとのペアでの撮影に移る。今日のコンセプトは年の差カップルという事らしい。色々なポーズを要求どおりこなしていく、中には色々際どいものもあったりして胸がドキドキしたけどこれでもプロのつもりなのでその気持は表情には出さない。


 合法的にお兄ちゃんと手と手を恋人つなぎしたり、キス一歩手前まで顔を近づけたりとうれし恥ずかしな撮影だった。撮影は3時間ほどで終わり着替えを済ましスタッフさんたちに挨拶をして終りとなった。


「沢尻さんお疲れ様でした」


「陽向葵ちゃんもお疲れさま、今日もバッチリだったわよ」


「ありがとうございます、またよろしくお願いします」


 この人は沢尻さん、オネエっぽい喋りをするれっきとした男性だ。今回撮影した系列雑誌のカメラマンをしているので、私とはかれこれ7,8年の付き合いになる。最初出会った時はかなり気後れしたけどもう見慣れてしまって何も思わなくなった。


「陽向葵ちゃん今日は一段と可愛かったわよ、愛するお兄様との撮影だったからかしら?」


「も、もうそんなんじゃない……こともないけど、兄妹の好きだからね」


「うふふ、そういう事にしておいてあげるわ」


 私と沢尻さんがそんなやり取りをしているとお兄ちゃんがあいさつ回りをして戻ってきた。


「沢尻さんお疲れ様でした」


月夜つくよくんもお疲れ様だったわね、ほんと男前になって、どうこの後お食事でもいかない、二人きりでね」


「すいません今日は先約がありまして」


 そう言って私の頭を2回ぽんぽんと軽く叩く。


「あら、陽向葵ちゃんとデートなのね、それじゃあ仕方ないわね」


「そういうことなので、また今度お願いします、それじゃあ陽向葵行こうか」


 そう言って手を差し出してくる、えっデートなんて聞いてないんだけど、あーそうか沢尻さんから逃げる口実かな、そういう事なら仕方ないなーと思ってお兄ちゃんの手を取る。


「「お疲れ様でした」」


 手をつなぎながら二人して挨拶をして撮影場所から抜け出す。


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