第2話 勇者行為②

「今日は勇者行為を行います!」

 言ってからが早かった。

 彼女は事態を把握するのに手間取り放心するような私を引きずるようにとてもの前まで案内すると───誰の承諾を得ることもなく倉庫に押し入ったのだ。さながら手慣れた盗賊のような手つきで倉庫の扉をこじ開けるとそのまま物色をし始めた自称勇者のアムの行為に自称巫女のユウアだけでなくヒィルもそれに続く───正気の沙汰とは思えない光景がそこに広がっていた。身綺麗な格好をした二人の少女冒険者と、がこなれた手つきで当たり前のような顔をして、盗賊行為を行っているのだ。

 私は半ば放心しつつ問うた。

「なぁ、この倉庫は知り合いの倉庫なのか?」

 自称勇者は軽く答えた。

「いえ、知らない方の倉庫ですね」

 私は再び問うた。

「ならいったい誰の倉庫なんだ?」

 彼女は物色する手を止めることなく答える。

「この地域で一番のお金持ちの方ですかねー?」

 彼女の返事は何故か疑問形だ。つまり彼女自身、この倉庫の持ち主を把握していないという事なのか。私の心は現世から離れんばかりだったが、そうも言ってはいられない。

 昨日知り合ったばかりの二人の少女冒険者はいざ知らず、二人と行動を共にしている赤毛の少女は私と同郷の、長く冒険者として共に在った存在なのだ。このまま犯罪行為に加担───慣れた様子からして恐らく初犯ではなかろうことからは目を逸らしつつ───させるわけにはいかなかった。私に向かってを見せびらかす金髪の少女に気のない返事を返したりするうちにいくらか正気を取り戻した私は彼女を止めるべく息を吸い、足を一歩前に進め───そこで開け放たれたままの扉の外から大勢の足音が聞こえてくるのに気が付いた。『終わった』そう、思った。


 駆け付けた男たちは倉庫に押し入った盗賊を見るや口を開く

「これは一体どういう───「おじ様、私このマジックアイテムをいただきたいわ」

 自称勇者が駆け付けた男たちの中でも身なりと恰幅の良い男に話しかけた。おそらくは彼がこの倉庫の持ち主であろう。

 しかし彼女はどういうつもりなのか理解に苦しんだ。どう贔屓目に見ても私たちは倉庫に侵入した盗人だ。そんな盗人が「これが欲しい」などと申告している。通るはずがない。私たちは罪人として裁かれることになるだろう。

「このマジックアイテムをいただく代わりにそれに相応しい仕事があれば請け負いたいのですが、なにかお困りことはないでしょうか?」

(困ったことといえば目下盗賊が自分の管理する倉庫に盗賊が押し入った事だろう。)

 私は心の中でごちたが、この自称勇者は自分が勇者であるという設定を忘れてはいなかったようだ。

 だかどう考えても通るはずがない。誤魔化すにしたってやり方が粗雑すぎる。手順が逆なのだ。このような仕事の請け負い方など、通るはずが───

「なるほど。勇者の方でしたか。そちらのアイテムに相応しい仕事ですか、そうですね…」

 ───通った。倉庫の持ち主であろう男は押し入った盗賊の言うことを真に受け、提供するよう要請されたアイテムと引き換えにするに相応しい仕事を思案し始めた。

 私は何が起こったのか理解するのに時間を要した。


 男から提案された『マジックアイテムの対価に相応しい仕事』は最近この地域に通じる街道に出没するようになったというモンスターの討伐だった。仕事の内容自体は私が冒険者ギルドで一人で受けていた物と大差のない物だったがギルドを挟んでいない分だけ相場より手取りは良いのではないかと思われた。少なくともこの手の仕事一回でマジックアイテムを購入できるほどの報酬を得ることはほとんどないはずだったからだ。


 討伐を終え、手に馴染んだ仕事をこなす過程で冷静さを取り戻した私は報酬を受け取りに行く前に彼女たちに問いただした。

「君たちは本当になのか?」と

 このまま、あの倉庫の持ち主の所に報酬を受け取りに馳せ参じた所を捕らえられるような事態を警戒したのだ。

 私にはあの倉庫の持ち主がをやり過ごすために提案に乗ったふりをしただけという可能性を捨てきれなかったのだ。

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