競技大会を数日後に控えて

ススムは日常生活が送れるようになった。そこで馬に乗る練習を始めた。

ここは移動が馬なので、乗れないと自由に動けない。

ダグに付きっきりで教えてもらうのだが、ななか上手くいかない。長い引きこもりと熱のせいで体の筋肉の力が弱っているようだ。でも、あきらめない。俺は前の自分とは違う。ススムはかなりの時間を馬の練習に費やした。


その日もいつも通り練習していると「おお、坊主、大分乗れるようになったな!」といきなり大声がした。振り返るとウルがにこにこしながら手を振っている。

「いきなり話しかけないでください、ススムが馬から落ちたらどうするんです」ダグが抗議する。

「すまんすまん。ススムに今度の大会のことで相談があってな、ススム今から闘技場に来てもらえないか?」

「今からですか?私は構いませんが、ダグ行っていいのかな?」

「私からブラギ様には伝えておきます。どうぞ」

「いいんだな。じゃススム行くぞ」と言うとウルはいきなりススムを抱え上げると馬に乗せ走り出した。

馬は駿足で走る。ススムは振り落とされないようにしがみついた。


闘技場に着くとテュールが待っていた。

「お~い!ススムを連れて来たぞ」

「早かったな、ススムが目を回してるじゃないか」

馬から降りたススムはくらくらしていた。ウルが頭を掻く。

「しばらく休め話はそれからだ」椅子に座らされ、飲み物が渡された。


暫くして気分がよくなったようなのでテュールが話しかけた。

「闘技場の準備は順調に進んでいる。聞きたいのは決勝に残った者を見分ける方法と、優勝者に何を渡すかと言う事なんだ」

「決勝に残った方には布の輪を、優勝者には植物で編んだ冠などはどうでしょうか」

「布の輪?」

「細い布で大き目の輪を作るんです。それを首と片手を通せば競技の邪魔にもなりません。決勝で負けたら返すとすれば誰が残っているかもわかりやすいです」

「でもよ、優勝者が冠って言うのはどうなんだ?価値が無いんじゃ?」

「優勝したという栄誉は消えないでしょう!高価なものを送るのでは目的が違ってきます」

「そうだがよ、俺たちその優勝者と特別試合をするんだ。負けるつもりはないし負けられない。その後どうすればいい?」

「特別試合が終わったら、改めて3人の優勝者を集めて冠をかぶせ、お二人が賛辞を送ればいいのでは?」

「そうだな、それなら負けても対面が守られる」

「そうか、俺たちが良くやったって示せばいいんだな」

「そうです」

「よーし解った。それでいこうぜ。なあ、テュール特別試合のことは選手以外秘密だよな」

「ああ、当日闘技場で話すつもりだ。その方が選手たちの奮起に繋がり、観客には驚きになるだろうからな」

「それはいいですね、盛り上がると思いますよ」

「よし、それでいこうぜ、後は俺たちに任せろ。今日はありがとうな」

「当日は王や王族も来る。失礼のないようにしないと。ススムも特別席で見てもらうから」

「え!」

「そりゃそうだろう、誰がここまで指導したと思ってるんだ。ススム、君の力だよ」

「そうそう、でんと座って俺たちの有志を見てな。じゃテュール、ススムを家に送ってくる」

「そうしてくれ、じゃ当日」

「はい」


ウルは行きよりもゆっくりと馬を走らせた。

家に着きススムを馬から降ろすと「じゃあな。当日闘技場で会おう」と言って帰って行った。


俺の力・・・その言葉が何度も頭の中を木霊こだました。









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