24. 国外追放です

「ぐっ……」

「マドぉ、大丈夫!?」


 声が聞こえた方向を見てみると、ブーメランが突き刺さって蹲るマドネス王子の姿が目に入った。


「自業自得だな」

「ええ、自業自得ですわね」


 そう思っていたのは私達だけではなかったみたいで、他の方々が頷いていた。

 隣に癒しの力を持つ聖女候補がいるから、誰も心配していない様子。


 当然だけれど、他国で武器を他人に向けて放つ行為は禁忌に等しい。

 怒りの感情のままに、誰かを傷つけようとすることだって、絶対に許されない。


「ルシアナさん、大丈夫だった?」

「ええ、無事ですわ。心配してくださってありがとうございます」


 駆け寄ってきたアイネア殿下に笑顔で返事をする私。

 でも、彼女は怒りを滲ませていた。


「マドネス王子。貴方は自分がしたことの重大さを分かっていますか?」

「俺は国民を始末しようとしただけだ」

「違いますわ。ルシアナさんは、私達のアルバラン帝国の国民ですわ。

 わたくし、大切な国民を殺されそうになって黙っているような愚か者ではありませんの」


 皇帝陛下は遠くからこちらの様子を伺っているみたいで、前に出てくることは無かった。

 でも……。


「マドネス王子。貴方を国外追放に処します。今すぐに王国に帰ってください。

 そして二度と、この地に足を踏み入れないでください」


 アイネア殿下が陛下に目配せをすると、すぐに頷きが返ってきた。

 帝国では皇帝の子なら政治に関わる権限を持っているけれど、それは全て陛下の許可が必要になっている。


 今回はその許可が出たから、アイネア殿下でもマドネス王子を処すことが出来る。


「……リーシャさん、貴女も国外追放にしますわ。なんとなく腹立たしいので」

「なんとなくで決めていいの!?」

「感情に任せてルシアナさんを国外追放にした貴女達に指摘されるとは思わなかったわ」


 この裁きに私が参加することは出来ないから静観しているのだけど、リーシャもマドネス王子も、発言が跳ね返っているのよね。

 まるでブーメランが戻って来て刺さっているのと同じね。形は言葉だけれど、似たようなものだと思った。


「これは決定事項だから、早く出ていきなさい。

 それとも、その足は飾りかしら?」

「嫌よ! アルカンシェル商会に行ってサファイアの原石を見るまでは帰らないわ!

 アルカンシェル商会の商会長もここに居るのよね? 会って話をさせてくれたら、大人しく帰るわ」

「今すぐ帰ってくださるのですね。安心しましたわ」


 リーシャの言葉を聞いて、つい口にしてしまう私。

 原石を見なくても商会長――私と話したら帰ってくれるみたいだから。


「商会長はどこにいるのよ?」

「ここに居るわ」

「会わせてって言っているの!」

「もうお話しもしていますわ。私が商会長ですから」


 この態度の時点で不敬罪になってしまうはずなのだけど、追い返す以外のことをしたら外交問題になってしまう。

 だから陛下もアイネア殿下も咎めていない。


「そんなこと聞いていないわ。でも、サファイアの原石を見せてくれたら赦すわ」

「私と話をしたら帰ると言っていましたよね? 証拠もありますわよ?」

「そんなことどうでもいいから、原石を見せて!」

「嫌ですわ」


 小さな子供のように我儘を言うリーシャに、きっぱりと断りの言葉を告げる。

 それでも引き下がらなかったから、ついに帝国の騎士団が動いた。


 ちなみに、マドネス王子は麻痺毒が回って動けなくなったみたいで、床に倒れているところをズルズルと引きずられて会場から去っていった。

 リーシャは縄で縛られると、今までの虚勢が嘘のように大人しくなって、そのまま会場から強制的に連れ出されていった。


「ルシアナのせいよ……」


 去り際にそんな言葉を呟いていたけれど、私は関係ないと思う。

 だって、リーシャたちが勝手に騒いで勝手に断罪されただけなのだから。


 ……自業自得よね?




 それから数分。

 マドネス王子達が去って静まり返る会場の中央に皇帝陛下が来て、こう口にした。


「皆の者、騒がせてしまって済まない。主役は消えたが、ここからは交流会として楽しんでもらいたい」


 騒ぎに関わっていた私は申し訳なさから頭を下げていたのだけど、お咎めは全く無かったから。

 昨日のパーティーと似た雰囲気の中、流れ出した曲に合わせてレオン様とダンスを楽しんだり、たくさんの方とのお話を楽しむことが出来た。


 でも、一つだけ変わったことも起きていた。

 ある人物が放った批判の言葉がその人物に跳ね返るようなことを指す時に「ブーメランが刺さっている」と言われるようになっていた。


 些細なことでも「ブーメラン刺さっていますよ」と指摘して、指摘した側もされた側も笑い合う。

 とある王国の王子と聖女候補を嘲笑するこのやり取りは、会場のあちこちで起こっていた。


 帝国での流行をこの短時間で作れるだなんて、マドネス王子はおかしな才能の持ち主ね……。

 全く羨ましくないけれど。

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