第17話 【掲示板回】見出された男
[スターダスト]:おい、ウソだろ(11:56)
[シャドウさん]:すげぇ すげぇぞあれ(11:56)
[シャドウさん]:みんな見ました?(11:56)
[スターダスト]:うん……てか、ここにいるの俺たちしかいないけど とにかく凄かった(11:56)
[シャドウさん]:ドラゴンエアリアルの群れって、ヤバですよね?(11:57)
[スターダスト]:うん ヤバい(11:57)
[シャドウさん]:それを瞬殺って、ヤバないですか?(11:57)
[スターダスト]:うん ヤバい(11:57)
[スターダスト]:てか、ネコッタちゃんあんな強かったの? そっちも驚きなんだが(11:57)
[シャドウさん]:たぶんですけど、ネコッタの装備品、あのときと同じじゃない? ゆめKoが売ったやつ(11:57)
[スターダスト]:あー(11:57)
[スターダスト]:ちょっとまって この地味キャラ氏も同じ武器使ってなかった?(11:58)
[スターダスト]:エフェクトと効果が一緒ぽい(11:58)
[シャドウさん]:ですね(11:58)
[スターダスト]:まってまって てことはさ、あの地味キャラ氏……もしかしてとんでもない武器を創れたりする? そういうスキル持ちのヒト?(11:58)
[シャドウさん]:ですね ですよね(11:58)
[シャドウさん]:鳥肌立ってきた(11:59)
[スターダスト]:俺も(11:59)
[スターダスト]:もしかしたら俺たち、すげえプレイヤーを見つけてしまったかもしれない(11:59)
[シャドウさん]:おおおおおおおお(11:59)
[シャドウさん]:お昼です(12:00)
[スターダスト]:コーヒー吹いたじゃないかどうしてくれる(12:01)
[シャドウさん]:すみません(12:01)
[シャドウさん]:これから要チェックですね!(12:01)
[スターダスト]:だね こりゃいせスト開くのが楽しみになってきたぞ(12:01)
[シャドウさん]:モブ乙と馬鹿にされてたキャラが実は最強の鍛冶師だった件&ツンネコ行商娘が実は最強DPSキャラだった件(12:02)
[シャドウさん]:胸熱of俺得すぎる(12:02)
[スターダスト]:それofそれ(12:02)
[シャドウさん]:絶対、また見に来ましょう!(12:02)
[スターダスト]:キミとは良い酒が飲めそうだ(12:03)
[シャドウさん]:カップ麺のびてた(12:06)
[スターダスト]:返事がないと思ったら……どんだけフリーズしてたの(12:07)
◇◆◇
刻哉は、突然の助っ人をじっと見つめていた。
見事な斬撃で敵――いせストでも時折目にする厄介なモンスター、ドラゴンエアリアルを両断した少女。
猫耳。よく動く尻尾付き。気の強そうな瞳に、赤銅色のツインテール。細く小柄な身体に、どういうわけか水着のような布地の少ない衣装をまとう。
いせストに登場するNPCでも人気キャラのひとり、リコッタ嬢。通称――ネコッタちゃん。
道行くプレイヤーに行商人として道具類を提供する子で、その古き良き強気な言動と猫のような容姿とがマッチして、多くの視聴者に愛されている。
そのリコッタ嬢の面影が、目の前の猫耳少女にはあった。
刻哉が安心したのは、ゆめKoのようにデフォルメされていないから。ちゃんと自分の意志で動いて、生きている『異世界人』だとわかったからだ。
汚れた身体、やや不健康に見える肌艶、そこに刻まれた細かな傷跡が、どうしようもなくリアルだった。
それでも、やはり可愛い。フィステラと出逢ったときにも感じた、現代日本にはない美しさがあると刻哉は思った。
よく食べて、よく眠って、療養と傷の手当てを行えば、きっと誰もが振り返る美少女に生まれ変わるだろう。
この子に必要なのは休息だ。
刻哉と同じように。
「――トキヤさん!?」
フィステラが狼狽えた。
刻哉はその場に膝を突き、激しく咳き込んだ。
激しい頭痛と、紙を丸めるような全身の圧迫感に刻哉は悶絶した。
頭の中の冷静な、頭痛すらも邪魔できないようなネジの吹っ飛んだ部分が、原因を推測する。
……ドラゴンを返り討ちにするのに、気を張りすぎた。
今の刻哉には、持ち前の超集中力が逆に足枷になっている。
能力を発揮すればするほど、体内のマナを急速に消費する。死に近づく。
チーターに近づく。
「――ッ! ――!」
――聞き慣れない音の羅列が耳に入った。
刻哉は顔を上げる。フィステラと向き合う位置で、獣人少女が刻哉の背中を撫でていた。
何かをしきりに喋っている。だが、刻哉にはその意味が理解できない。理解不能な言語だった。
フィステラの言葉はきちんと聞き取れるのに。
「そうか。だから君は異世界人なんだね」
刻哉はつぶやく。リコッタが理解した様子はなかった。こちらの言うことも通じないらしい。
まったく。いせストは謎ばかりだ。
世界に振り回されるこの感じ。所詮、いせスト世界でも同じなのだ。
だからこそ、ここでやりたいことをやり抜く。
元の世界でできなかった生き方を、ここで。
もしかしたら生まれて初めてかもしれない、刻哉にとっての
「やってやるさ」
額を地面にこすりつけるような姿勢になりながら、刻哉は不敵につぶやいた。
今、俺は死んでいない。
なら、俺はまだ生きていけるということだ。
――そんな彼へ吸い寄せられるように、獣人少女リコッタは大きな目を見開いて、じっと刻哉の表情を見つめていた。
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