第15話 シンディの違和感
夜半にやってきた青仮面のアーサーは、シンディの報告を聞いて憤慨した。
「くそ……。やはりそんなことだったか。急に停戦和解に応じたからおかしいとは思っていたのだ。なにか怪しい動きがあるとずっと思っていた」
アーサーは腹を立てたものの、さほど驚かなかった。
ある程度予想はしていたらしい。
そして、シンディはアーサーが来るまで、ずっと考えていたことを尋ねた。
「シンシア様は……本当に自殺されたのですか?」
「……」
唐突なシンディの問いに、アーサーは黙り込んだ。
ずっと違和感を持っていた。
わがまま放題で好き放題のシンシアが、本当に鬱々として自ら命を絶ったのか。
どうにも違和感しかない。
しかも、三年だけの婚姻で、暗殺計画にまで加担していたシンシアだ。
自殺などせずとも、三年後にはグラハムに帰れると思っていたはずだ。
そのちょうど三年目、暗殺成就の目前に自殺していることになる。
シンディは何も答えようとしないアーサーの代わりに答えた。
「殺したのですね。アーサー様が……」
シンシアは殺された。
最初から殺すつもりでシンディを影武者として教育していたのだ。
アーサーは観念したのか肩をすくめて肯いた。
「そうだ。殺した。私が命じた」
「……」
非難の目で見るシンディにアーサーは続けた。
「仕方がなかったんだ。何か企んでいるのは分かっていた。私は最初からあの高慢ちきな女達を拷問して、何を企んでいるのか吐かせるべきだと陛下に進言してきた。しかし、陛下はそんな非道なことはできないと、万が一にも違ったらどうするのだと応じてくださらなかった」
「では……ルーカス陛下は本当に何もご存じないのですか?」
「ああ。若くして即位された陛下は、臣下のすべてに寛容で慈悲深い方だ。私はそういう陛下を守るべく先王より
「アーサー様……」
気持ちは分からなくはないが、王妃殺しという大罪を犯しているのだ。
そしてシンディもそのアーサーに加担していることになる。
「なんて恐ろしい……」
自分がしていることが、今更ながら恐ろしくなった。
「だが、それはグラハムの連中も同じだ。私が王妃を殺していなければ、今頃ルーカス陛下が暗殺されて、ラムーザの国は攻め込まれていたことだろう。君のいたトロイの村だって、今頃は戦場になって誰も生きていなかったはずだ」
そうだ。
恐ろしいことだけれど、アーサーがいなければ今頃祖父も母もカイルも死んでいた。
政争とはこういうものなのだ。
そしてシンディはそこにどっぷりとはまり込んでしまっていた。
「なぜ私に嘘をついたのですか? 王妃が自殺しただなんて……」
「正直に話したら、君が引き受けてくれないだろうと思った」
確かにそうだろう。
アーサーが殺したのだと知っていたら、さすがに尻込みして逃げ出していたかもしれない。
少なくとも、シンシアに同情してボロが出てしまっていた気がする。
「分かって欲しい、シンディ。これは戦争なんだ。やらなければやられる。私はルーカス陛下を守りたかったんだ」
シンディは目を閉じて、大きく息を吸い込んだ。
そして決心したように目を開く。
「ええ。真実を知りたかっただけです。よく分かりました」
「シンディ。どうするつもりだ」
不安を浮かべるアーサーに、シンディは真っ直ぐに顔を向け答えた。
「決まっているわ。ラムーザのため、トロイの村のため、そして……ルーカス様のため、グラハムの王に思い知らせてやりましょう」
ここまできたらやるしかない。
甘ったるい良心など、この場で捨て去ることにした。
反撃開始だ。
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