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お盆の上に透明なグラスに入れたアイスコーヒーを2つのせ、社内を歩く。

通り過ぎる社員の方がたまに“良い香り”と声を掛けてくれる。

それに瞬きをしながら小さくお辞儀をし、エレベーターに乗った。




そして、1番上の階へ・・・。

立派な大きな扉は毎回緊張してしまう。

少し呼吸を整えてからノックをすると、しばらくしてから扉がゆっくりと開いた。




「お待ちしておりました、どうぞ。」




秘書の男性が私を部屋の中に入れてくれる。

私をこの大企業の副社長室の中に・・・。

小さくお辞儀をしながら部屋の中へ入り、応接用ソファーのローテーブルにアイスコーヒーを2つ置いた。




「ありがとう。

笠原さんの珈琲を飲みたいからランチでは珈琲を飲まなくなったよ。」




藤岡副社長が優しい笑顔でデスクから立ち上がり、応接用ソファーに静かに座った。

そしてアイスコーヒーをストローでゆっくり飲み、何度も頷く。




「我が社の珈琲店は今日も美味しいね。」




そんなことを言って優しく笑い掛けてくれたので、小さくお辞儀をした。




「社員は利用しているかな?」




「1日に30人~80人程です。」




「少ないと30人なんだ。」




「日によってもそうですが、月初や月半ば月末によっても利用者数の傾向がありそうですね。」




「そうか・・・。

そこら辺の分析をしてみるのも面白そうだね。」




それに小さく返事をし、立ち上がり深くお辞儀をした。




また秘書の男性が扉を開けてくれたので小さくお辞儀をして副社長室を出る。




軽くなったお盆を持ちながら帰りは階段で降りる。

廊下を歩いていると社員の男性が私に気付いた。

私は瞬きをしながら小さくお辞儀をする。





「笠原さん、今日って貸し切り時間ありますか?」




「今日は今のところありません。

もしも私が不在でしたら部屋の内線で呼び出してくださいね。」




「やった!!ありがとう!!

営業から戻ったら行きます!!

まさか社内に珈琲店を作るとは思わなかったよね!!」




社員の方からそう言われ私は笑い返す。




私は藤岡ホールディングスの人事部珈琲店の店長・・・。

会社の福利厚生の一環として社内に珈琲店を作った。

チェーン店のカフェで長年バイトをしていただけの私が藤岡ホールディングスという大企業に入社が出来たのは、社内の珈琲店のため。




福利厚生の一環なので珈琲を無料で提供している。

だから社員ではなくバイトだった私でも採用されたのかもしれない。

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