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珈琲店の部屋の扉、他の扉よりもしっかりした扉を開ける。

それからストッパーで扉を解放し、オープンの看板を出した。




午前中の営業時間を終えた後はパソコンでの作業があり人事部の部屋にいたけど、基本的に私はこの部屋が仕事場。

ここで珈琲を淹れる仕事をしている。




店内は応接用ソファーの他にも1人掛け用のソファー席や、数人で座れるテーブル席、オフィス街を見渡せるカウンター席まである。

店内で飲むこともテイクアウトも出来るようになっている。




観葉植物やお洒落な絵画もあり、壁はお洒落な赤めのレンガみたいになっていて、日中は明るいけど夕方以降は少し暗めの照明にする。




応接室や会議室を使わず、この珈琲店で会議や来客対応をする社員の方も増えてきた。

1人で対応するのが大変な瞬間はあるけれど、基本的には珈琲を淹れるだけなので1人で回せている。




午後も何人かが珈琲を買いに来たり店内で珈琲を飲む様子を瞬きをしながら眺める。




「俺にも1杯。」




午前中にも来店した天野さんが午後も来て注文をしてきた。

それに笑顔で返事をしてから冷蔵庫を開け牛乳を取り出し・・・小さめのグラスに注いだ。




「牛乳です。」




「ん・・・。」




天野さんは牛乳が入ったグラスを受け取った後、席には座らずキッチンカウンターの所に立ったまま店内を見渡し、牛乳を飲み始めた。

私は天野さんの斜め後ろ姿を見ながらいつもより多めに瞬きをする。




そんな私に天野さんが振り返り、真面目な顔をして聞いてきた。




「今日、貸し切りは?」




「今のところありません。」




「店番する奴1人くらい入れるか?

社内デリバリーまでやってるだろ?」




「そっちの方が重要ですから。

でもすぐに戻ってこられるので、“デリバリー中”の看板を出しておけばお客様も店内の椅子に座って待ってくれています。」




天野さんが何かを考えている顔で頷き口を少し開けた時・・・




「天野さん!お疲れ様です!!」




女の子2人組のお客様が来店し天野さんに挨拶をした。

天野さんがそれに「お疲れ様でーす」とそっけない返事をすると、女の子2人は「冷たい!」と楽しそうに笑っている。




「天野さん、それ何ですか?」




「牛乳。」




「珈琲店で牛乳ですか!?

珈琲飲めないんですか?」




「飲めるけど飲まない。

カフェイン嫌いなんだよ。」




天野さんがそう言ってから少し残っていた牛乳を一気に飲み、「ごちそうさま」と言ってから私にグラスを返してきた。

それを笑顔で受け取り「ありがとうございました」と言うと・・・




「接客中は笑って喋れるのかよ!!!」




と面白そうに笑いながらお店を出ていった。

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