第73回 最後の敵
※三人称です。
キリアイリラがカローに滞在して二日目。
国を統べる者同士、語り合おう。
そんな提案を経て、キリアイリラはナーサと応接室にてお茶を飲むことになった。
臣下さえいない、完全なふたりきり。
当然、二人きりで話すなどあまりにも不安なので、アオコは認めない。
故に、アオコには内緒でこの会合は行われていた。
このことを、ナーサは知らない。
既にアオコから許可を得ていると思い込んでいた。
カップを持つナーサの手が震える。
相手は大国の女王。国の関係は対等とはいえ、無礼は働けない。
「そう緊張しないで」
「す、すみません」
「ふふ、シーナとは正反対」
コンプレックスを刺激され、ナーサは無意識に唇を噛んだ。
何度目だ、シーナと比べられたのは。
大好きで尊敬する母なのに、ほんの少し、忌々しい。
「どうしたの?」
「え?」
「悩みがあるのでしょう。私に話してごらんなさい」
「そ、そんな……」
「いいのよ。あなたのお母さんには、散々お世話になったから。恩返しをしないと」
ナーサは、シーナとキリアイリラが友人であると思っている。
愛人であった事実は、知らない。
「実は……」
キリアイリラに甘えるよう、ナーサは語った。
自分はいかにダメな皇帝なのか。愛するクレイピアを失い、元老院たちからの信頼もない。
いまじゃすっかり、アオコたちの傀儡。
麻薬に逃げていた汚点だけは話さなかったが、それ以外の悔しさ、情けなさ、怒り、すべてを語った。
「しょうがないわ。あなたはまだ若いもの」
「若いからって」
「シーナもあなたくらいのころは、よく失敗したものよ」
「ママが……」
信じられなかった。
シーナは大人としてはダメダメでも、先導者としては他の追随を許さぬ絶対的存在だと思っていたから。
「時間は長い。少しずつ、学んでいきなさい」
同じことをアオコやリューナに言われた。
言われたのに、できなかった。
だからアオコには見限られ、リューナは心を病んでしまった。
「困ったことがあれば、私を頼っていいのよ」
「し、しかし」
「いいのよ。私を母だと思いなさい」
あまりにも薄っぺらい励まし。
いまのナーサには、それでも充分だった。
優しさが胸を熱くする。
満たしてくれる。
気づけばナーサは、泣いていた。
瞬間、キリアイリラが勝利を確信する。
未だ恋い焦がれる最愛の人、シーナは手に入らなかった。
けれど欲しい。シーナが欲しい。
だから手に入れたい。シーナの代わりとなるものを。
娘と、国を。
「その恋人、クレイピアの件は、本当に残念だったわね」
「……暴漢に殺されてしまったのです」
「暴漢、ねえ」
「なにか?」
「クレイピアが、あのポルシウスの娘であることは知っていて?」
「え……ポルシウスって、あの……」
シーナと王の座を奪い合った宿敵。
幼少の頃、ナーサも一目会ったことがある。
「あなたは知らないといけないわ。クレイピアの正体。そして、誰に殺されたのか」
絶対に手に入れる。
シーナの国。
そのために、ポルシウスの一族を数名残し、けしかけたのだから。
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