第50回 ケイミス

 雨で地面が抜かるんで走りにくい。

 警備兵に呼ばれた私は、急いで噴水広場へと向かっていた。

 報告によると、そこにケイミスがいる。

 人を、殺している。


「たった一人で、なにをするつもりだ」


 広場にたどり着く直前に、私は思わず足を止めてしまった。

 驚愕し、力が抜けたのだ。

 苦悶の表情で横たわる人々の中心にいる、ケイミスの姿に。


「おや、来てくださいましたか」


 剣を抜く。


「なにをしているんです!!」


「同志たちが処刑され、コロロ様もあなたに懐柔されてしまった。だから、こうするしかなかったんですよ」


「……」


「シーナを殺し、カローを乗っ取ることにします。こういう力づくで強引なやり方は、クロロスル様は好まなかったのですが、仕方ない。……だから、手始めに厄介なあなたから先に殺そうと思いまして、ここに来てもらいました」


「そのために関係のない人を殺したんですか!!」


 転がる遺体を再度確認する。

 老人も、女性も、子供までいる。


 見境なしに殺したんだ。コロロのスキルで。


「申し訳ございません。ですが、あなたの家に忍び込んだら、万が一にもコロロ様まで巻き込んでしまう恐れがあったので」


「ふざけるな!! そんなことで、コロロが納得するわけがない!! あの子はあの子なりに、家の再興を果たすつもりなんですよ!!」


「いずれ必ず理解してくださる。クロロスル様の意思を」


 お前の願望だろ。

 こいつだけは生かしてはおけない。

 絶対に殺す。

 殺してやる!!


誰も邪魔するなオムニス・ネゴ!!」


 時間飛ばしによる瞬間移動で背後に回る。

 剣で背中を突き刺したが、


決して朽ちぬ野望インモルターリス


 やはり回復されてしまう。

 ケイミスが振り返る。

 まずい、視界に入ったらコロロのスキルで殺される。


 もう一度オムニス・ネゴで後ろに回ると、


「ならば私も」


 ケイミスもオムニス・ネゴで私の背後に回った。

 くそっ、三つもスキルが使えるなんて卑怯だろ!!


「便利な力だ、時間操作。では、さらば」


「くっ、間に合え!!」


 三度目のオムニス・ネゴで、噴水の裏へ隠れた。


「おやおや、どこに行ったのでしょう」


 こいつは強力なスキル故に、代償が重い。

 十中八九、体内にダメージが入っているが、インモルターリスで回復している。

 それでも、いつかスキルでも庇いきれなくなる。


 長期戦は不可能。

 だが、それまで戦い続けられるか?

 逃げることは可能だが、代償分のダメージが完全に治ってしまうかもしれない。


 どうする。

 どうすれば勝てる。

 やつの時間操作も上手くなっている。


 こんなとき、スキルを無効にできるシーナがいてくれたなら……。

 ダメだ、あんなやつを頼ってたまるか。


「ケイミス」


 噴水の水を手で掬い、こっちを向いたケイミスの顔面にかける。

 よし、視界を封じた。


 腹を切り、続け様に、首をはねた。


「ど、どうだ……」


 首を失ったケイミスが倒れる。

 血が噴き出る断面から、うにゅうにゅと高速で肉が飛び出し、新たなる顔を生成した。


「さすが、戦い方がお上手だ」


「化け物め……」


「化け物? これはクロロスル様の偉大なるお力。世界を制するためのスキルです。あぁ懐かしい、ベキリア戦争のときは、あなたとクロロスル様の力で、魔獣を倒していましたね」


「くっ!!」


 オムニス・ネゴで背後に回る。


「馬鹿の一つ覚えですか?」


 また、ケイミスが私の後ろへと瞬間移動した。

 くそ、また隠れないと。


「逃すか!!」


 ケイミスの腕が私の首を掴んだ。

 やばい、これは!!


最強の品行方正ユーストゥス!!」


 心臓に激痛が走る。

 発動された、強制殺害の力!!

 呼吸ができない。

 意識が遠のく。


 死ぬ。嫌だ。まだ死にたくない。

 ライナに託されたんだ、平和と、シーナを。


 やられてたまるか。

 絶対に取り戻す。コロロがおかしくなる前の、穏やかな日々を。

 ただ笑顔で過ごせていた時間を。


「うおおおおおおお!!!!」


 心臓の痛みがなくなる。

 ケイミスが手を離し、先ほどいた場所に瞬間移動し直す。


 な、なんだ?


 雨が……天へ昇っている。

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