第47回 独裁
処刑場へと急ぐ。
私が到着するころには、既にコロロがそこにいた。
防護柵を掴んで、眺めていた。
縛られた反乱者たちを捌くのは、アンリ。
冷淡な眼差しが、囚人の首を捉える。
コロロが叫んだ。
「待ってくれ! 償いなら私がする!!」
一人目が殺される。
「な、なんで……。だってシーナは、殺さないって」
そうだ。
シーナのやつ、なにを考えている。
こんなことをしているから、今回みたいな反乱が起きたんじゃないのか。
妨害したいが、処刑場への入り口は固く閉ざされている。
入れないのであれば、いくら時間を操ろうとも意味がない。
オムニス・ネゴで殺される時間を飛ばすか?
それならば可能だが、所詮は時間稼ぎにしかならない。
どうすればいいんだ。
二人目が、叫びながらも処刑台へと押さえつけられる。
彼の充血した瞳が、野次馬に紛れていたコロロを睨んだ。
「お前のせいだ。お前が立ち上がろうなんていうから、お前の!!」
「違う、私は、私は……」
「何故我らだけが殺される。お前も死ね!! 無能な父のように!!」
「あ……あぁ……」
これ以上コロロがここにいてはダメだ。
半ば強引に彼女を連れ出す。
反乱者の断末魔を耳にしながら、コロロが震えだした。
「アオコ」
「コロロちゃん、一度家に帰ろう」
「私……」
「大丈夫、もう終わったんだよ。終わったの」
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この時間、シーナは法務官や神官と打ち合わせをしている。
いくら私でも会いにいくことはできない。
ならば、先にするべきは、
「アンリ」
処刑が終わりアンリの家へ訪れると、すでにノレミュがそこにいた。
「あなた、シーナが望むならなんでもするんですの?」
鬱陶しそうにノレミュを無視し、私を睨んだ。
「お前まで」
「私も一言言いたい。今回ばかりはアンリも反発すべきだった。シーナは嘘を吐いたんだよ? 生かすって言っときながら殺した」
「本来反乱は死罪だろ」
「だから、それじゃあ!!」
「これからも反乱者は皆殺しにする。飼い慣らすのではなくな。シーナ様はそう決めたのだろう。……私はそれに従うだけだ」
ノレミュが胸ぐらを掴む。
「自分ってものがないんですの?」
「ないな。私が生きているのは、シーナ様のため」
「本当は嫌がっているくせに」
「嫌がっている? 私が?」
「辛気臭い顔が、最近はもっと辛気臭いですものね。どうせ夜になれば慰めのお人形遊びをしているんでしょ?」
「チッ!! 出ていけ、ベキリア人のくせに」
「なんですってぇ!!」
自分がない。
本当は嫌がっている。
ノレミュがアンリに発した言葉が、予想外にも私の胸を打った。
私は……いつまでライナの……。
ハッと我に返る。
なに考えているんだ私は。
ライナは私のはじめての友達で、命の恩人じゃないか。
とにかく、このままじゃ二人が本当に殴り合いでもはじめてしまいそうだ。
お互いを冷ますように、間に入る。
「アンリ、教えてほしいことがある」
「なんだ」
「死刑は、いつ議題に上がったの?」
「は? 議題になど……」
「元老院を通してないってことだよね」
「当たり前だ。シーナ様は独裁官なのだから」
元老院を無視して執行できる、か。
まさに独裁。
十中八九、元老院たちは反対したはずだ。
粛清による独裁の維持は、いずれ綻びが生じると理解しているから。
シーナだって、わかっているはずなんだ。
「アンリが敬うシーナは、もういない」
「なにをキサマ!!」
「昔のシーナは、もっと賢かった」
瞬間、私はこの世界に来たばかりのことを思い出した。
魔獣軍団を倒したあと、クロロスルの企みを懸念したライナが、言っていたこと。
本当に恐ろしいのは、脅威がいなくなった人間。
あのときはクロロスルを指していた言葉。
いまは……シーナこそがそれなのだ。
私はライナに託されている。
平和とシーナを。
今度ばかりは、シーナを止めなくてはならない。
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