第43回 ヨルの街

 目を覚ましたリューナちゃんが語ったのは、コロロとケイミスの会話。

 コロロの素直な性格につけ込んで、あることないこと吹き込んだようだ。


「大規模な反乱が予想される。アンリ、街の様子はどう?」


 議事堂にて、シーナと元老院、そして私とアンリが対策を練る。

 一応、私はシーナ直属の親衛隊隊長の立場なので、議会でも発言権があった。


「パトロールしているが、不審な点はない」


 なら、どこで鳴りを潜めているのか。

 もうこの街にはいないのだろうか。


「シーナさん、どう見ます?」


「……」


「シーナさん?」


「え? あ、あぁ」


 ぼーっとしていたのか? こんなときに。


 シーナが少し考え込む。

 こういうとき、こいつは抜群の読みを発揮する。


「私なら首都から離れた街を占拠し、反乱の拠点とする」


「……例えば?」


「立地的にはベキリアだが……。悪い、上手く頭が回らん」


 頼りにならないな。

 よほど普段の疲労が溜まっているのか。


「なんにせよ、戦って勝てるわけがないことくらい、子供でもわかるはずだ。仮にコロロのスキル、『最強の品行方正ユーストゥス』を利用するつもりでも、そもそもコロロに人は殺せない。覚悟を決めても、実行できない。そういう子だ」


 よほど強力なスキル持ちがいるのだろうか。

 元貴族が兵を上げたって、大した数にはならない。


「そういえばシーナさん、ルルルンさんやナーサちゃんを保護しなくて大丈夫ですか? 狙いはあなただ。人質にされるかも」


「警備は強化しているが、おそらく大丈夫だろう。攫えるなら、とっくにやってる」


 とにかく、敵が動き出さないとこちらも動けない。

 念の為の捜索は続けるが。


 そして、一夜明けて、


「シーナ様!!」


「なんだアンリ」


「ヨルの街が、占拠されました」


 ついに事は起こった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ヨルの街。

 貿易の中継地となる巨大な市場街。

 様々な商品がここを通るため、道はいつも商人で溢れている。


 ここを抑える事で経済に打撃を与えるつもりなのか。

 否、きっとそれは違う。


 ヨルは、もともと魔獣たちの住処だった。

 私が初めて参加した魔獣軍団との戦い。その報酬としてクロロスルが手に入れた土地こそが、ヨル。


 つまり、クロロスルの街だったのだ。

 いまでは領地の権利はシーナが保有しているが。


 街が元貴族たちに占拠されてから一日、私たちのもとに使者が訪れる。

 彼はシーナを前にして、要求を語った。


 一つ、経済難に陥っている領主・貴族を支援すること。

 二つ、各地域の税率を上げ、貴族への取り分を増やすこと。

 三つ、シーナの独裁官としての任期を残り一年とすること。


「なにを無茶な……」


 シーナが使者に問う。


「誰が指揮をしている。この要求は誰が決めた」


「あのクロロスルのご子息、コロロだ」


 最悪の展開だ。

 しかし、コロロがたった数日でここまで決められるわけがない。

 街を占拠なんて指示するわけがない。

 確実にケイミスが裏で噛んでいる。


「シーナさん……」


「アオコ、わかっているな」


「……」


「アンリと共に収めてこい。兵ならいくらでも出す」


「コロロちゃんは操られているだけです。本人の意思じゃない」


「とにかく、捕えろ。最悪の場合……おい、お前」


 シーナが使者を呼ぶ。


「コロロは他になにか言っていたか?」


「戦いたいんじゃない、話し合いたいのだ。と」


「……コロロらしいな」


 考えが浅すぎる。

 話し合ってどうにかなる問題じゃない。

 こんなやり方では逆効果なんだ。


 もしシーナが折れて要求通りに法を変えたら、すべてが崩れる。

 シーナという絶対権力者が統治する平和。それを維持する威厳、すべてが。

 力で願いが通るなら、みんな真似してしまう。

 仮に今回だけは叶え、次回は無視すれば、余計に不満が募る。


「シーナさん、行ってきます」

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