第44回 対峙
軍を引き連れ、ヨルの街へ向かう。
私は第一部隊の部隊長という役職で、実際に軍を指揮するのはアンリだ。
アンリはこの五年間、いやそれよりもずっと前からシーナに兵法を教わっていた。
人を使うのが慣れていない私よりよっぽど役に立つ。
ヨル街より東側にある関所に近づくと、見えてきた。
殺意に満ちた兵士たちの姿が。
適当な距離で軍を止める。
「アンリ、まずは私がいくよ」
「お前に交渉ができるのか?」
「喧嘩っ早いアンリよりはね」
私だけが前に進む。
それに応じて、向こうも二人だけが接近してきた。
ケイミスと、コロロだ。
申し訳なさそうな、だけど覚悟を決めたような、曖昧な表情であった。
「コロロちゃん」
「アオコ」
「いまならまだ許してもらえる」
「わ、私は聞いたぞ!! シーナがパパ上様を敵に売ったのだと!!」
「はあ?」
リューナちゃんが語ったケイミスの嘘か。
ここで間違いを指摘したって、コロロが混乱するだけだろう。
「真偽はともかく、話し合いたいならこんなことする必要ないよね? コロロちゃんなら、いつでもシーナさんに会える」
「わ、私も、こういうのはいけないと思ってる。でも本気だと、わかってほしかったんだ。後ろにいるのは領地を奪われ、重い税を課せられ、困窮している者たち。シーナがやっていることは、搾取する相手を市民から嫌いな貴族に変えただけじゃないのか? それは、よくないと思う」
深刻そうな表情。
この世の闇をとらえた発言。
まるで普段のコロロちゃんじゃない。
言わされているのか、それとも、心の奥底にしまっていた本心なのか。
「そうかもね」
「この方法しかないと、ケイミスも言っていた」
ケイミスが口を開く。
「シーナ様を殺したいわけではないのです。ただ、平等に手を差し向けて欲しい。そして理解して欲しい。あなたが皇帝になれたのは、クロロスル様がベキリアで尽力したからだと。まずはこのヨルの街を、コロロ様に渡していただきたい」
「私の口から言えるのは一つ。矛を収めるなら、いましかない。……コロロちゃん、家でユーナちゃんが待ってるよ」
最後の一言が引き金となり、コロロは泣き出した。
こんなことしたくないというのは、本心なのだろう。
コロロは優しい子だ。いつだって、困っている人には率先して手を差し伸べ、先頭に立って解決に当たっている。
まさに品行方正。
「わかった、アオ----」
コロロの言葉を遮るように、ケイミスが喋り出した。
「なら、致し方ありませんね」
全身が熱く滾る。
この感覚、スキルを発動したときと同じ。
ケイミスが私と同じタイプのスキル持ちなら、まずい。
先を越されるわけにはいかない!!
「
時間を遅くする。
しょうがない、いまここでケイミスだけでも殺す。
「アオコさん」
「え……」
ケイミスが、私と同じ速度で動いている。
「最後のお願いです。私たちに協力してください」
同じタイプだから、遅くなった時間の中でも活動できるのか?
それとも同時に発動していた?
「あなたはクロロスル様に気に入られていた」
知らなかったな、それは。
「それに、シーナ様に不満を抱いているはずだ。見ていればわかります」
確かに、いまでもシーナのことは好きじゃない。
しかしそれとこれは別。
第一、私は背負っているのだ。ライナの願いを。
「ケイミスさん、ひとまずこれを読んでくれませんか」
懐から手紙を出すフリをしながら接近する。
あと三歩、二歩……いまだ。
高速で剣を抜く。
「
時間を飛ばした先で、私の刃はケイミスの喉に触れる寸前まで迫っていた。
躊躇いなく、そのまま掻っ切る。
オムニス・ネゴの新しい使い方。
攻撃が行われている途中の時間を消し飛ばし、防御を封じる技だ。
簡略化して説明するならば、瞬間移動のような動きができるわけだ。
「残念ですが、あなただけは殺す」
「おやおや」
「!?」
戻っていく、裂かれたはずの喉が。
そして、時間遅延の効果が切れる直前で、
「私も残念です。死んでください、アオコさん」
嫌な予感がする。
こいつの側にいるのはまずい。
時間が正常に戻ると同時、私はオムニス・ネゴで一瞬にして背後に回った。
すると、
「うっ!」
私たちの軍の兵士が、苦しみだして、死んだのだ。
ちょうど、私の真後ろにいた兵士が。
これは、コロロの
コロロが発動したわけではない。彼女は泣いている。
視界に兵士は入っていない。
視界にいなければ、対象は殺せない。
なら、考えられるのは、ケイミス。
私が瞬間的にいなくなったことで、その後ろにいた兵士が視界に入った。
「ありえない……」
そんなわけがない。
だってスキルは一人一つだ。
複数の能力があっても、私のスキルが「時間」で統一されているように、何らかの共通点があるはずなのだ。
ケイミスのスキルは私と同じタイプ。
なら別の人間が発動したのか?
突然人が死に、仲間たちもコロロも狼狽える。
その混乱のなかで、ケイミスがゆっくりと振り返った。
「オムニス・ネゴ。こちらも相当便利な力のようだ」
「……」
「しかし私ではまだ、あなたのように自在に操れない」
「なに、言ってるんですか」
「私の持つスキルの名は、『
私と同じタイプのスキルが使えた。
クロロスルのように回復までできた。
もしかしたら、コロロのスキルも……。
まさか、こいつ。
「他人のスキルを、コピーするスキル」
「さすが、戦闘経験豊富な方だ」
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