第42回 不安
※途中までリューナ視点です。
最近コロロの様子がおかしいです。
柄にもなくボーっとする時間が増えました。
なにも考えていないならまだしも、どこか思い詰めた様子で、こっちまで不安になります。
どうしたのか、ユーナに尋ねてみたところ、
「これ、誰にも言わないでね」
コロロに目覚めたスキルのことを、話してくれました。
この世で最も残酷で、恐ろしいスキル。
そんなものが、まさかコロロに宿るなんて……。
でもコロロは優しいから大丈夫。
そう思っていたのですが、
「ごめんください」
家に私とコロロしかいないときに、ケイミスさんが訪ねてきたのです。
「どうしたのだケイミス」
「少し、コロロ様にお願いがございまして」
そう言って、二人は書斎に入って行きました。
コロロにどんなお願いをするのか、どうしても気になって、扉の前で盗み聞きをすることにしました。
「なんだ? お願いって」
「それよりもまず、コロロ様が手に入れたスキルについて教えてください」
「え、あ、あぁ、実はな……」
視界にいる対象を殺せる能力。
その能力の詳細と、目覚めた経緯を、コロロは堪えていたものをぶちまけるように口にしました。
「なんだか、怖い力を手に入れてしまった」
「なにを仰る!! なんと素晴らしいスキル。きっとクロロスル様もお喜びになる」
「そ、そうか?」
「名前は決めているのですか?」
「あぁ!! 『
「おぉ、ユーストゥス。さすがはコロロ様。名付けのセンスは父親譲りですな」
「おぉ!! そうか!?」
「私は一生、あなたに付き従います。どうぞ、よろしくお願いします」
「ふっふっふ、照れるな〜。ん? 握手がしたいのか? いいだろう。あれ? ケイミス、お前右利きじゃなかったか?」
「右手を怪我してしまいまして」
「そうか」
数秒会話が途切れます。
おそらく握手をしているのでしょう。
「それで、お願いなのですが」
「なんだ? このコロロ様に任せろ!!」
「共にシーナを倒しましょう」
「え」
な、なにを……。
思わず声が出てしまいそうになりました。
シーナ姉上様を討つ?
それって、反乱を起こすということですか?
「コロロ様もお気付きのはずです。シーナは、貴族が力を持つことを過剰に恐れています。弱く、自分に忠実なものばかりを優遇しているのです。クロロスル家が没落したままなのは、シーナがあなたを恐れているからなのです」
「そ、そうなのか?」
そんなわけありません!!
なにを勝手な。
「私に賛同する元貴族たちは大勢います。そのなかで最も力があり、栄華を誇っていたクロロスル家の跡取り、つまりコロロ様に、反乱軍の長を勤めてほしいのです。クロロスル様のご子息ともなれば、必ずみな付いてきてくれます!!」
「え、でも、シーナはいいやつだぞ。私にもよくしてくれている。復興のためには名を上げて有名になるのが一番だと、あいつが教えてくれた」
「飼い慣らされているのです」
コロロ、真に受けてはいけません!!
乱入して叱らないと。いや、違う。
いまここで私がするべきは、情報を集めること。
そしてそれを、アオコさんやシーナ姉上様に伝えること。
「コロロ様、どうか」
「し、しかし……」
「本来、カローの皇帝になるべきはクロロスル様だったはずです。シーナは、それを阻止するため、戦争中ワザと敵に拉致させたのです!!」
「え!?」
「側にいた私が、この目で見ていました!!」
「そ、そんな……」
コロロ、信じちゃダメ。
「す、少し考えてみる」
「………………」
「だ、だが!!」
「………………」
「わかった」
なんでしょう。
なにをわかったのでしょう。
小声で何か呟いたのでしょうか。
次の瞬間、
「盗み聞きですか」
後ろから声がして、振り返ると、ケイミスさんが立っていました。
部屋の中にいるはずなのに。
逃げ出そうとした直後、腹部に衝撃が走り、私の意識は、途絶えてしまったのです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
家に帰ると、ユーナちゃんが泣きながら、気を失っているリューナちゃんを抱えていた。
「コロロがいないの!!」
いったい何があったのか。
その結論に至る推理をするよりも前に、私はノレミュにシーナを連れてくるようお願いした。
ほどなくして、シーナが到着する。
「どうしたのだユーナ!!」
「わからない。帰ったらリューナが倒れてて、コロロがいなくて!!」
家が荒らされた形跡はない。
リューナちゃんの外傷も、腹部にできたアザだけだ。
おそらく、一撃で気絶させられている。
ユーナちゃんがシーナに泣きついた。
「どうなってるの!! リューナは大丈夫なの? コロロはどこ?」
「落ち着けユーナ。医者を呼んである。コロロも、警備兵を総動員して捜索させる」
コロロ、ただ遊びに行っていただけ、なんてオチであってほしいけど。
「アオコ、お前なら何があったか心当たりがあるんじゃないか?」
「いえ、まったく」
「ん? しかしお前、何度か時間を遅くしていただろう」
……え?
「私の仕事にも影響が出るから、非常時以外は使うなと注意しているのに、時間が遅くなった。つまり、誰かと戦っていたのではないのか?」
「使っていません。だって今日は、シーナさんに頼まれて湖の国の外交官を出迎える準備をしていましたから。今日は、使ってないんです」
「バカな……」
いや、そうとは言い切れない。
自分のことなのに、わからない点がある。
「けど、私も感じてはいました。時間を遅くするときいつも感じてた高揚感。スキルを発動していないのに、何故か」
「まさか、お前と同じ能力のスキルを持った者がいると?」
信じられない……。
だとすれば、これまでも何度か高揚感を覚えていないとおかしいし、スキルの効果を受けないシーナだって気づくはずだ。
時間操作なんて便利すぎる力、普通なら日常の中で多用したくなるはずだし。
もしや、コロロのように後天的にスキルに目覚めたのか?
くそっ、気持ち悪い。もやもやする。
ユーナちゃんがポツリとつぶやく。
「ケイミスが関わっているのかな」
その名を聞いたシーナが眉をひそめた。
「ケイミス、覚えがある名だな」
「シーナさん、ケイミスはクロロスルさんの部下です。ベキリア戦争にも参加していました」
「あぁ、思い出した。クロロスルのところの副将か。ベキリアに勝利したあと先にカローに戻っていた。そういえば、先週会ったな」
「え、会ってたんですか?」
「街でばったり会い、握手をかわした」
「握手?」
私もした。
ケイミスと握手を。
単に握手が好きな性格なのか?
「なんだ、ケイミスがどうした」
医者が到着する。
慎重に丁寧にリューナちゃんを寝室まで移動させ、私とシーナはあとのことを医者に任せた。
ユーナちゃんはリューナちゃんに付きっきりで、私たちは二人だけで、会話を続けた。
ケイミスはコロロちゃんにクロロスルの意思を継いでほしいと願っている。
そう説明すると、シーナはため息をついた。
「捜索対象が増えたな」
「私もケイミスと握手をしたんです。なにか、関係あるんでしょうか。スキル発動の条件とか」
「わからない。ただ一つ確かなのは、ケイミスは確実にコロロを利用するということ。コロロのスキルをな」
もしあんなものが悪用されたら甚大な被害がもたらされる。
ふざけるな、せっかく掴んだ平和。果たしたライナとの約束。
こんなことで台無しにされてたまるか。
怒りが込み上げる。
私も捜索に参加しよう。
などと家から出ようとした瞬間、過ぎった。
シーナへの、不信感が。
「まさかとは思いますけど、殺しませんよね、コロロちゃん」
「お前が私を疑う気持ちは理解できるが、私だって鬼じゃない。それに、コロロのことは気に入っている。あの真っ直ぐな性格をな。なによりユーナの婚約者であるということは、私の親戚でもあるのだ。こんなことは皇帝として言いたくはないが、甘い裁定を下すだろう。あいつが、どうしようもないほどの重罪を侵さない限り」
「何が起きたとしても、コロロちゃんは絶対に悪人になんかなりません。あの子は、品行方正です」
「わかってる。私だって信じている」
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