第41回 最凶のスキル
ひょんなことから始まった魔獣退治。
参加者はコロロユーナカップルと、シーナ、そして私。
「良いんですかシーナさん。もっと護衛つけなくて」
「平気だろ、お前がいるんだから」
危険になっても私がスキルを発動すればどうにかなる、だろうけど。
あんたは一応この国の皇帝。油断大敵でしょうに。
「てか参加するんですね」
「ナーサに思い出させるのさ、お母さんの威厳を!!」
「威厳あったんですか?」
「おい!!」
そんなこんなで森を進む私たち。
荷物持ちとして参加しているユーナちゃんが、先頭を歩くコロロちゃんに話しかける。
「気をつけてよね。噂だとデッカくて凶暴なのが二匹いるらしいんだから」
「任せろ!!」
なんでも、その魔獣とは外来種で、カローにある森の生態系を狂わせているらしい。
無益な殺生はしたくないが、こうなっては仕方ない。悪いが、殺す。
少し休もう。そうユーナちゃんが提案したとき、
「来るぞ」
シーナが何かを察した直後、巨大な魔獣が現れた。
熊に似ているが手足が六本あり、角もある。
一匹、しかしこの辺では見ない魔獣。
間違いない、こいつだ。
私とシーナ、コロロちゃんが剣を抜く。
「先手必勝!! コロロ斬りー」
などとコロロが攻撃を仕掛けたが、剛腕で弾き飛ばされてしまった。
「コロロ!!」
「いてて、案ずるなユーナ。むむー、こいつ強い。くっそー。絶対負けるものか!! 家を再興するのだ!!」
魔獣を倒した程度で再興など無理であろうが、とにかく名を上げたいのだろう。
しょうがない、時間を遅くして私とシーナで倒すか。
そう思い、カエルムを発動しようとしたとき、
「ん?」
魔獣は突然苦しみだし、倒れた。
シーナが近寄る。
「死んでいる」
え、なんで?
病気だったのかな。
などと困惑していると、草陰からもう一匹の魔獣が飛び出してきた。
しかもユーナちゃんを狙っている。
まずい!!
「ユーナ!!」
コロロが叫ぶ。
その直後、魔獣はまた、一人でに苦しみだし、死んだ。
「ど、どういうこと?」
なんだ?
二匹揃って病気、とは考えにくい。
シーナが何かしたわけでもない。
首を傾げていると、コロロが高らかに笑い出した。
「なはは!! よくわからないが、私に恐れをなしてショック死したのだろう!! どうだユーナ!!」
「そんなわけないでしょう」
ユーナちゃんの言う通りだ。
シーナに視線をやると、彼女はじっと、コロロを見つめていた。
「コロロ」
「なんだシーナ」
「せっかくだ、森にいる獰猛な魔獣たちも何匹か狩っておくか」
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他の魔獣も勝手に死んでしまった。
剣で切ったわけでも、弓を打ったわけでもないのに。
狩りを終えたあと、シーナは深刻そうに、コロロに告げる。
「スキルに目覚めたな。後天性だ」
「スキル?」
ユーナがコロロに抱きつく。
「すごいじゃんコロロ!!」
「なはは!! ついに目覚めたか!! きっとパパ上様のような素晴らしい力に違いない」
「でシーナお姉さま、どんなスキルなの?」
シーナが言い淀む。
十中八九、シーナは私と同じ結論に至っている。
ありえないと願いたいが、おそらくそうなのだろう。
でなければ説明がつかない。
「対象を強制的に殺すスキル、といったところか」
コロロとユーナが固まった。
当たり前だ。彼女たちの生活とはあまりにもかけ離れた、残酷で、恐ろしい力なのだから。
シーナが続ける。
「観察したところ、視界に入っている対象に殺意を抱くと発動するらしい。ポルシウスのように発動に動作が必要でもなく、一度に大量に殺せる。末恐ろしいな」
それが本当なら、私のカエルムよりも凶悪な力だ。
やろうと思えば、今のこの場で全員を殺すことができる。
シーナ以外は。
「コロロ」
「な、なんだ?」
「お前の性格なら問題はないだろうが、スキルは使うなよ」
「わ、わかった」
さすがのコロロも素直だな。
自分に悍ましいスキルが宿ってしまったのだから、無理もない。
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森から帰り、私たちはシーナと別れて家に向かっていた。
もうすぐ日が暮れる。
コロロとユーナは、まだ口を閉ざしたままだ。
不安そうに視線を落としている。
何か言ってやらないと。
そもそも、普段通り穏やかにくらしていれば発動はしないんだ。
コロロは明るくて優しくて良い子だし、人を殺したいなんて思うわけがない。
「あのさ」
私が声をかけたとき、
「コロロ様!!」
ボロボロの服に身を包んだ中年の男が駆け寄ってきた。
身なりからして浮浪者だろうか。どこかで見覚えがある気がするのだが……。
コロロが嬉しそうに抱きしめる。
「おおケイミス!! 久しぶりじゃないか!! むむ、少し臭うな。お風呂に入っていないのか?」
「えぇ、家がないもので。アオコさんもお久しぶりです。覚えていますか? ベキリア戦争のとき、クロロスル様と共に戦ったーー」
思い出した。
そうだ、確かにクロロスルの軍にいた。
会話はしていないけれど、一緒に戦った人だ。
「ケイミス、家がないなら私の家で暮らすか? あ、アオコの家か。どうだアオコ」
「え、うん。少しの間ぐらいなら大丈夫だよコロロちゃん」
「やった!! やったなケイミス」
喜ぶコロロの傍らで、ユーナは顔をしかめていた。
嫌なのかな。そりゃあ、知らないおじさんと一緒に暮らすのは嫌か。
「コロロ様、お気持ちだけで充分です」
「そ、そうか? うーん、まあ困ったら遠慮なく訪ねに来い!!」
「ありがたいお言葉。お優しいところはクロロスル様譲りですね」
優しかったかな、クロロスル。
二人が盛り上がっていると、ユーナが私に耳打ちをしてきた。
「あの人、あんまり好きじゃない」
「なんで?」
「わかんないけど、なんか、コロロをおかしくしそうで」
漠然とした不安だな。
いまのところは、紳士的な人に見えるけど。
ていうか、ユーナの台詞からして既に一度会っているのか。
「それでコロロ様、どこまで考えていらっしゃいますか?」
「なにをだ?」
「お家の復興。そしてクロロスル様の意思を継ぐこと」
「あ〜、それなんだが。とにかくまずは有名になることにした」
「はぁ」
「有名になって偉い人間になるのだっ!! そのために今日は魔獣を討伐したのだぞ!! それにスキルにも目覚めて……」
コロロの声がだんだんと小さくなっていく。
あまり口にすべき能力ではないと理解しているのだろう。
「スキルに? どんな力なのですか?」
「そ、それはいずれ教える」
「……そうですか」
ケイミスは私の方を向くと、右手で握手を求めてきた。
「ベキリア戦争以降の活躍も耳にしています。とても素晴らしいスキルをお持ちのようで」
「はい。『
「そうでしたね。こっそり聞いていました」
握手を交わすと、ケイミスはそそくさと立ち去ってしまった。
別におかしなところはなにもない。
でもなんだろう。この胸騒ぎ。
ユーナが言っていたことが、少しわかる気がする。
コロロが手に入れた最凶のスキル。
クロロスルの意思。
決して交わってはいけない要素が、コロロを侵食していく予感がーー。
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