第27回 頂点へ

 戦争に勝ってから一ヶ月、私たちはベキリアの街に留まった。

 カローの完全な属州として、文化や政治制度、カローとの条約を作り直すためだ。


 ノレミュは私の奴隷として、いつも側にいる。

 奴隷と言っても、ただの付き添いだけど。


 シーナの前に出るたび、明らかな殺気を出してしまうが。

 きっと、私のことはギリギリ許せても、大将として指揮していたシーナのことは死んでも許せないんだろうな。


 もちろん、シーナも気づいている。彼女がベキリア大将の娘であること。

 そのうえで見逃しているのだ。


「もしこの子になにかあったら、今度こそ私はあなたを見限ります」


 そう脅したからかもしれない。

 まぁ、この人のことだから油断ならないけど。


 なにはともあれ、諸々の整備も終わり、帰国の頃合いになってきた。


「カローは、どんな国なんですの?」


「海が近くていいところだよ。きっとノレミュも気に入ってくれると思う」


「カロー人がたくさんいるんですわよね……」


「そ、そうだけどさ、アンリみたいに口が悪い人がたくさんいるわけじゃないよ!! 特にシーナの家族はみんな良い子ばかりなんだから」


 やっとみんなに会える。そうワクワクしながら荷物をまとめていると、


「アオコ、シーナ様が呼んでいる」


 アンリに声をかけられた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「どうしたんですか、いったい」


 シーナが泊まっている部屋に入ると、彼女は椅子に座ってぼーっとしていた。

 カローを出てからずっと多忙だったから、そうとう疲れが溜まっているのだろう。

 急ぎの要件じゃないのなら、明日にして寝ていればいいのに。


「アオコ、悪い。ちょっと、考えをまとめるのに話し相手がほしくてな」


「まだなにか考えることがあるんですか?」


「うーん、実はな、このままだと私たちは一生カローに帰れない」


「え!? なんでですか!? 誰がそんなこと?」


「心当たりぐらいあるだろ」


 ハッとポルシウスと元老院たちの顔が脳裏を過ぎった。

 とくにあの、ニヤニヤしているムカつく男、ポルシウスのことは三年経っても忘れない。


 そうかわかった。そうだった。

 シーナは命令に背いているんだ。

 数年前、戦争中に届いたカローからの手紙。なにもするなという指示。

 シーナはそれを破っている。


「そ、それで犯罪者扱い? でも勝ったじゃないですか!!」


「それはそれ、これはこれ、だろ。だが安心しろ。向こうにも予想外の事態が発生している」


「というと?」


「私の勝利が国中に轟き、私を英雄視する声が各地で上がっている。つまり、私の凱旋は民意なわけだ。押さえつければ、あちらが不利になる」


「……なら、ポルシウスたちなんか無視して執政官に戻れるのでは?」


 ふふっと、シーナが小馬鹿にしたように笑った。


「だからこそなんとしても帰国を阻止したいのさ」


「じゃあ、どうなるんです?」


「ベキリア属州監督としてずっとここに閉じ込めておく、といったところか」


「そんなの嫌です!!」


「あぁ、絶対に帰る。愛娘の成長をこの目で見れないなんて、もはや拷問だ。それに」


 ルルルンに甘えたい。

 ユーナやリューナを抱きしめたい。

 父上とライナの墓参りもしたい。


 そうシーナは続けた。



「しかしながらそうなれば、向こうからしたら二度も命令違反をしたという大義名分ができる。そして、戦争だな」


「同じカロー人同士で……」


 また戦争。

 ついこの間勝ったばっかりなのに。

 ふざけんな。なんで私たちばかりがこんな目に遭わなくちゃいけないんだ。


 ムカつく、忌々しい。あのポルシウス。

 他国の人間のくせに。

 今回の戦争だって、ポルシウスがシーナを追い出したいが故に起きたこと。


「消し去りたい、ポルシウス」


「そうだな」


「だいたい、何なんですかあいつ。なんで他所の国のやつが執政官なんですか!!」


「湖の国の王子だったそうだが、王位継承権を剥奪されたらしい。だから、カローに取り入ってカローを支配し、祖国を見返したいのだろう。もしくは、そうするよう指示されたのか。なんにせよ、カローは私の国だ。みすみす渡すつもりはない」


「じゃあ」


「あぁ、殺すか、ポルシウス」


 そして、とシーナは続けた。


「歯向かう者をすべて粛清し、私がカローの真なる頂点に君臨する」


 言葉が法となり、所作が導となる絶対的権力者。

 誰にも邪魔されず、全国民の憧憬を一身に集める神なる存在。

 共和制を廃して、あらゆる州、民族、国を支配する唯一無二の王。


「皇帝となるのだ」










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※あとがき


この章は皇帝になるまでの工程ってかwwww

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