第21回 アンリ、あるいはアーちゃん

 私はアンリと同じテントで眠ることになっている。

 シーナの粋な計らいってやつなのだが、正直傍迷惑だ。


 昼間のアンリの戦闘はよく覚えている。目立つ赤髪だから嫌でも目に入っていた。

 スキルを使用した感じはなかったけど、たった一人で敵の群れに飛び込んでは手足を踊るように華麗に動かし、何人も倒していた。

 私をバカにするだけあってずば抜けた身体能力と知恵を持っているようで、たぶんスキルがなければ私は勝てない。


 だって一方的に攻撃できる私より多く倒しているのだから、化け物だ。


「けどいつか見返してやる」


 シーナと別れ、私は自分のテントへ向かっていた。

 他のテントから男たちの笑い声が聞こえる。

 あんなに大変だったのに、元気なこった。


 もうアンリは寝ているだろうか。

 起こさないよう、静かにテントを開けると、


「アーちゃんもうちゅかれた」


「お疲れ様、アーちゃん。えらいえらい」


 犬のぬいぐるみを抱いたアンリが、一人でぶつぶつ喋っていた。

 一人二役である。


「あのね、アーちゃん。使えない雑魚と組まされることになったの」


 おい私のことかよ。


「辛いね〜。でも、アーちゃんなら大丈夫!! そんなやつどさくさに紛れて殺しちゃえばいいよ!!」


 なに物騒なこと言っとんねんクソ犬。

 い、いや、犬を演じてるアンリか。


「ふぇ〜、もうや!! や!! お家帰りたいお〜」


 と泣きべそかきつつ、アンリが振り返った。

 バチクソ目があってしまった。


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


「……あ、あの」


「死ねええええええええ!!!!」


 アンリが剣を振り下ろしてきやがった!!


「うわあ!!」


 時間減速のスキルで回避しなかったら即死だったな。


「覗き見とは趣味が悪いなお前!!」


「そ、それはごめん。でもこのことは誰にも言わないよ!! アーちゃん」


「キサマアアアアッッ!!!!」


 ごめんねアンリ。

 あまりにも状況が面白すぎて。


 まさかこんな一面があったなんてな。ストレスが溜まると幼児退行しちゃうんだね。

 わかるよ。わかるわかる。


「ところでさ、アンリはスキル持ってるの?」


「誰がキサマに教えるか」


「え、仲間なんだし知ってた方がよくない? アーちゃん」


「マジで殺す!!」


「あはは、ごめんて」


 ひひ、これでもう次からは生意気な口を効かなくなるだろうな。

 一夜にして形勢逆転だぜ。


「私さ、クロロスルさんにスキルの名前を考えてもらったんだよね。『理想の世界へカエルム』。どう? 私も最初はビミョーだなぁって思ってたけど、いざ口にしてみると違うね。こう、気合いが入るっていうか、やってやるぞ!! って気持ちになる」


「どうでもいい。馴れ馴れしく話しかけてくるな」


「スキルがあるなら、せめて名前だけでも教えてよ」


「嫌だ」


「もしかして名前ないの? クロロスルさんに考えてもらおう。必ず救出してさ」


 アンリが眉をひそめた。


「なぜあいつを助ける。このまま死んでくれた方がありがたいだろ」


「そんなこと言わないでよ。確かに悪い人だけど、死んでほしくはない」


 可能な限り、誰も。

 ただでさえ、これからも戦いで死んでいく人がいるのだから、せめて、救えるなら救いたいじゃないか。


「どう助ける?」


「敵の拠点を制圧したり、かな。どこにいるのかもわからないけど」


 下手に敵を刺激すると殺されてしまうだろうか。

 じゃあ他にどんな方法がある? とにかく、生きていることを祈るしかない。


「ふん、甘ちゃんだな。まあ助けたければ好きにしろ。だが、ピンチになって助けを求めても絶対に助けてやらないからな」


「えー、それは困るよ、ア」


 あ、凄い怖い目で睨まれた。

 さすがによしとこ。


 アンリのおかげか、少し心が軽くなった。


 まさかアンリに戦いの疲れを癒してもらえるなんて、想像もしていなかった。

 もしかしたら、二人目の友達にくらいなら、なれるのかもしれない。






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※あとがき


なんか、思ったより話が暗くなり過ぎずに済んでいるような……。

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